エッセイ【手のひらサイズの、りんごライフ。】vol.2

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津軽に移り住んで3年目。
じゃいご(=田舎の)女将が、暮らしの中にみるりんごをテーマに、
小さな発見・驚き・感動をつづります。

 


 

Vol.2 まめまめしく、豆しぼり

 今春は桜の開花が早かったので、さくらまつりのプレオープンのころからたくさんの観光客を目にしました。私も、観光は大好きです。

 知らない道をぶらぶらするのは楽しいですし、おいしい店や穴場スポットを探し歩くのもワクワクします。

 名所めぐりのような街歩きも良いです。浅草に行ったら雷門でお参りし、札幌では時計台を眺めて、仙台では牛タンを食べるというような、ザ・王道コースもたまりません。訪れる年齢やタイミングによって、新鮮な魅力を感じたりします。

 弘前の王道といえば、やっぱりりんご!

 津軽では保存技術が進んでいるので、春でもおいしいりんごは食べられますが、もぎたてのおいしさを知ってしまった私としては、この時期は加工品を開拓したいところです。

 特に、ことしは、観光と併せて楽しめる『アップルパイクーポン』が発売されました。市内で使える700円分のアップルパイチケットのほか、主要観光施設の入場券や観光情報誌、お買い物割引券など、弘前初心者にはもってこいの内容が詰まっています。

 価格は1冊1500円ですが、単独で購入すると約2500円に相当しますからかなりお得です。「どこに行こうか」あるいは「どこをおすすめしようか」というときに、情報がコンパクトにまとまっているので観光シーズンには重宝しそうです。

 なんだか観光協会の使いの者のようになってしまいましたが、そうではありません。弘前に転居して丸3年が経ちましたが、まだまだ知らないことばかり。アップルパイにしても、味わっていないもののほうが多いわけです。

 りんご王国で作られるアップルパイは、やはりおいしいに違いありません。ちょうど良い機会なので「ここは一つ、観光客気分でご当地アップルパイをお得に食べよう!」と思い立ち、クーポン片手に行ってきました。

 

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 おじゃましたのは、弘前市りんご公園の中のカフェ・レストラン「りんごの家」。

 こちらのアップルパイはオリジナルではなく、市内の菓子店より6種類をそろえており、その中から選べるスタイルのようです。

 この日は、たむらファームのアップルパイ(プレーン)とアップルティーのセットをいただきました。

 パイの切れ目から覗く果肉の赤色が美しく、気分が上がります。生地はふかふか。紅玉を甘く煮たものが包まれており、手作りならではの素朴な味がします。さわやかな香りのアップルティーは、ティーサーバーのおかわり付き。このたっぷりサイズがうれしいですね。

 ほかのアップルパイもたちまち売れていき、店を出るころにはショーケースは空っぽ。まだ、お昼過ぎでしたが完売とは盛況です。

 帰りには、クーポンについている「おみやげ5%割引券」でショッピングを満喫。息子リクエストの、りんごの絵柄が入ったコースターと、前から欲しかったりんごの豆しぼり手ぬぐいを購入しました。

 

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「りんごの家」でいただいた、紅玉のアップルパイ。りんごのお皿に、りんごのティーカップ。まさに、りんごづくし!

 

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りんご公園はアップルパイ以外にも魅力たっぷり! 弘前りんご花まつりの時期は、家族でお花見を楽しみました

 

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 豆しぼりといえば。

 20代のころ、岩手県陸前高田市にある木工所を訪れたことがありました。住宅誌の執筆のお仕事で、左官、造園、畳など、家づくりに関わる職人を取材していました。その木工所は、取材中もっとも印象に残った、建具職人の小泉勉さんにお会いした場所です。

 お弟子さんが忙しく働く作業場の一角に、大きな木のテーブルがあって、そこに小泉さんは座っていました。私に目をやり「おう!」と声を上げ、「取材って言ってもなァ、何話していいかわかんねぇナァ」と、にかっと笑いました。黒々と日焼けした顔に、豆しぼりの手ぬぐいを頭にぎゅっと巻いて、いかにも昔気質の職人さんといった出で立ちでした。

 気仙地域は、「気仙大工」という一大職人集団があることで知られ、古くは気仙杉を使用した民家や寺院を建設し、職人同士の多彩な技を競い合った特異な地域です。

 小泉さんは、その歴史と伝統の中にありながら、新しい工夫と技術を生み出したことで評価され、「現代の名工」や「SSFものづくり大賞」に選ばれた、匠の中の匠です。

 代表作の「組子屏風ひねり」は、脂肪分の少ない気仙杉の白身を厚さ1.2ミリに削ってひねりを加えたことで、遮断や閉鎖といった屏風の機能を生かしながらも、風通しをよくすることに成功した至極の逸品。気仙大工の技術と創造性を、広く世に伝えるものとなりました。

 工房を巡りながら、素晴らしい作品に感嘆するばかりの私に、小泉さんが言いました。
「建具だけ良くても、だめなンだよ。それを通してみる家の内観や外観はどうか。日々の生活に合っているか。住宅事情に合っているか。隣近所の環境はどうか。今だけでなく、何十年先の将来はどうか。いろんなことを考えて、作って、直して、いい塩梅にする。そこに住む人の暮らしや風土に“合った”ときに、いい建具になるンだよ」

 当時の私は、早くライターとして一人前になろうと必死でした。先輩に並ぶ技術を身に着けたくて、成長したくて、がむしゃらでした。要求されれば、それが自分のキャパシティーを超えていても受けましたし、付き合いたくない人とも交流して、無理に視野を広げようとしていました。うまく行くこともあれば、失敗して叩かれることもしょっちゅう。

 でも、本当にそれで良かったのかな。結果を出そうという気持ちばかり先行して、周りがちゃんと見えていたかな。

 微細に加工された木片が、何十何百何千と集まって生み出される、芸術的な組子細工に囲まれて、一瞬よぎりました。小泉さんは、作りかけの作品から、小指の爪ほどの組子の一部をつまんで私にくれました。

 「まずはこれがスタート。これがちゃんとできないうちは、いくらこうしたい、ああしたいって言って組んでみてもだめなの。でも、一つ一つがちゃんとしてれば、何十年だって何百年だって使える建具になる」

 

 帰り際、トレードマークの豆しぼりの手ぬぐいについて触れると、

 「これは、物差しなんだよ。おんなじ大きさの丸が、おんなじ間隔で並んでるだろ。そうするとこっからここまではこんくらい、って長さがわかるからさ。俺は昔っから仕事のときはこれを持ってるんだよ。いいだろ?似合うだろ?」
と言って、また、にかっと笑いました。

 あの日から10年以上経ちますが、私も豆しぼりの手ぬぐいを愛用しています。巻いたり、拭いたり、包んだり、いろいろ使いますが、なかなかへこたれません。紺色の丸模様が、等間隔にお行儀よく並んだ古典柄に、小泉さんの笑顔と、もがきながらも一所懸命だった自分を思い出します。

 小さなこと。基本のこと。あせらず、きちんと積み重ねていく。

 私にとって教訓を与えてくれた特別なアイテムです。

 

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りんご豆しぼり(左)と、上原家で長年愛用している元祖・豆しぼり(右)。どちらも大切に使います

 

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 帰宅後、測ってみたら、りんごの豆しぼりの「りんご3つ分」と「紺の豆4つ分」が同じ長さでした。豆しぼりって、どれも同じ間隔ではないのですね。弘前ならではの物差しに、新たな“豆”知識を見出しました。

 たまには、王道もいいものです。見える景色は、いつもと違うわけですから。

 

 

※アップルパイクーポンの内容は、予告なく変更になる場合があります。ご利用の際は、各施設のきまりに従ってお使いください。

 


 

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上原 香織 プロフィール

盛岡市生まれ。土手町「鮨たむら」女将。出版社、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動。結婚、夫の転勤を機に弘前市に転居する。現在は夫婦ですし店を切り盛りしながら、青森のおいしいものを探索中。趣味は観光と登山。一児の母。

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