農家の庭先でシードルを ~弘前シードル工房 kimori~
りんごのお酒、『シードル』。弘前にりんご農家が作ったシードルがあります。
りんご畑に囲まれた白い三角屋根、温かなウッドデッキ。ここがkimoriです。
「農家の庭先でシードルを。」これがkimoriのコンセプト。ぬくもりあふれる想いが、随所から伝わってくるようです。
代表の高橋さんは、今年で就農12年目。もともとは東京で仕事をしていたのが、お母様の病気をきっかけにりんごに携わるようになり、地元へ帰ってきたそうです。
「当時は何をするにも東京に行かないとできない仕事が多かった。しかしパソコンの普及に伴ってどこでもできる仕事になり、東京に居なければならない理由が薄れていました。そんな時りんごに携わるようになって、りんごはここでないとできないものだと実感しました。」
まったくの素人から手探りで始めたりんご農家だが、面白くなっていったといいます。
「りんごはとても手がかかる。それがやりがいにつながっていきました。それなのに周りを見ると、廃業していくりんご農家がある。あと20年後には大変なことになる、という危機感がありましたね。」
シードル作りを始めるきっかけ
決定的な出来事は平成20年の雹被害。降雹によって出荷できなくなり行き場を失った大量のりんごを、穴を掘って埋めるしかなかったという。
「自分は大丈夫だったけれど、知人が被害に遭いました。あんなに1年間手間をかけて育てたのに、雹による少しのキズが付いただけで最後に捨てるしかないなんて。そんなのとてもやるせない。このままでいいのか、今何をやるべきなのか。それを意識したとき、パッとシードルが浮かんできたんです。」
早速、シードル作りへ。
そのときは自分で作るという考えは全くなかったそうです。
「シードル作りを委託することを考え、依頼しようと伺った先の工場長に『むしろ地元の方たちに作って欲しい』と言われました。大手が作るのでは意味がない。地元にいろいろな種類のシードルがあれば、地元が盛り上がるのではないかと言われ、自分たちで作ろうと思いました。」
平成20年には1社しかなかったシードルも、今はシードルの飲み比べができるイベント「シードルナイト」を開催できるまでに種類も増え、じわじわと人気が高まっています。
りんごの産地、りんごの印象
「もっとりんごに、りんご畑に、シードルに親しんでほしい。」
高橋さんはそう語ります。
「雹の被害に遭う前から、この現状をなんとかしたいという想いはありました。『りんご農家です』って言うと、『大変ですね』といった類の同情の目を向けられるんです。りんご農家は割りに合わない仕事だと思われているから。ニュースでりんご関係の報道があると、台風だ、雹だ、りんご泥棒だと良いニュースが流れない。だから、りんご農家は儲からないし良いことないでしょ?というイメージなのでしょう。
でも実際は、りんご農家は本当にりんごが大好きなんです。りんご農家を続けたい、けれどどうしても、泣く泣く廃業しなければならないというのが実際の状況なんです。一般の人たちとりんご農家の間で、こんなにも認識に溝が生まれてしまっているんです。これを変えなければ、生の声を伝えなければと思いました。」
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室内には薪ストーブが。寒いときはりんごの薪で暖をとります。 |
りんごとの距離
「りんごは弘前公園の桜と同じくらい弘前に貢献していると思うんです。」しかしりんごは桜のように歓迎されてはいない。同じくらい弘前に貢献しているのに、なぜなのか。
「それはりんごが地元を飛び越えてしまって、地域にあまり触れていないからなのだと感じました。これはりんご関係者みんなが反省しなければならないことです。
りんごが安値の年は、地域の経済も回らない。りんごの直接的な売り上げだけでなく、間接的な売り上げも大きく影響しているからです。りんご全体が、この地域全体の経済を動かしている。これはりんご農家だけの問題ではなく、地域全体の問題なんです。」
だから、もっとりんごを身近に感じて欲しい。
もっとりんごに触れて欲しい。りんご畑に来て、りんご畑を知って、りんご畑に親しんで欲しい。りんごというものはこんなに良いもんだということを感じられる場所にしたい。
高橋さんはそうおっしゃっていました。
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【写真左から】 kimoriシードル スイート アップルパイなどにおすすめ。 kimori シードル ドライ チーズ、焼き鳥、魚介、刺身などの生魚に。高橋さんのおすすめはニシンの切り込みだそうです。 |
kimoriこだわりのおいしさ
「うちのシードルは、ろ過していません。ろ過してしまうとりんごらしさがなくなってしまうんです。
もうひとつ特徴としては炭酸ガスを人工的に充填していないことですね。他のものだと後から人工的に炭酸を充填させるのですが、うちは酵母だけで醗酵させているんです。」
ゆっくり時間をかけて、舌触りの良い、まろやかな炭酸になるのだそう。
「農家がこっそり作っているどぶろくのイメージなんです。農家秘蔵の、とっておきのお酒。
そんなお酒を多くの人たちに飲んで、そしてりんごに親しんで欲しい。」
おすすめの飲み方を教えていただきました。
「シードルはよく冷やして飲んで欲しいです。氷を入れると味が薄まって、せっかくのりんごの風味が薄くなってしまいます。温めて飲むのもおいしいんですよ。『kimori SIDRE SWEET』を温めて、りんごのウイスキーを少し入れるとまた格別のおいしさです。
ニーズに挑戦する
「今後は小さなタンクも入れたいですね。
農家の方から「作って欲しい」という要望もあるので、それにも応えたいです。」
お忙しい中時間を割いてくださった高橋さん、本当にありがとうございました。
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高橋哲史 | |||||
株式会社 百姓堂本舗 代表取締役 | |||||
平成15年にUターン就農。平成24年、りんご生産者らを主体とした「株式会社百姓堂本舗」を設立。平成26年にシードル加工施設「弘前シードル工房 kimori」をオープン。 |
![]() | <弘前シードル工房 kimori> | ||
代表 | : | 高橋哲史 | |
住所 | : | 弘前市大字清水字寺沢52-3 (弘前りんご公園内) | |
TEL | : | 0172-88-8936 | |
FAX | : | 0172-88-8976 | |
運営 | : | 株式会社百姓堂本舗 |