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第37号 スウェーデンの伝統菓子セムラ

南スウェーデンの新年はクリスマスから元旦へと雪の無いまま迎えました。外の庭はまだ緑の芝生に覆われていました。日本では除夜の鐘、こちらでは午前0時と共に一斉にあちこちで花火が上げられ、人々はシャンパングラスを片手におめでとう!おめでとう!と乾杯して祝います。

暗い大地から突然「ババン」と大地に轟き、シュルシュルと花火が上がり、ドーン!と澄んだ冬の空に大輪の花が咲き広がり、今年は雪が無かっただけに一層美しく感じられます。毎年スウェーデンのどこかで新年を祝う花火の事故が起こってしまうのですが、その凄まじい音と見事な色彩美で1年を締めくくり、家族含め皆無事に新年を迎えられたと思うのでした。

新年を祝う花火

今回は新年になるとあちこちのカフェやお菓子屋さんで売り出されるスウェーデンのお菓子「セムラ」(Semla)について書いてみましょう。

セムラの別名は“断食のお菓子”とか“脂肪の火曜日のお菓子”と呼ばれています。由来はキリストの断食苦行のなごりで、かつて復活祭前の四旬節(しじゅんせつ)の40日間に(日曜日を除く)断食が行われていました。この「セムラ」は断食前に食べるご馳走の一つだったそうです。

現在では食する習慣だけが残り、季節のお菓子と親しまれ、正月早々販売されるようになりました。筆者がルンド大学に通っていた1970年代は、確か2月に入ってから販売されていました。近年では既にクリスマスが終わると同時に販売されている所もあります。

「セムラ」(Semla)

セムラは、小麦粉のカルダモンの効いた丸く甘いパンを半分に切った下部の方へ柔らかいアーモンドペーストを詰め、その上へ甘さ控えめのホイップクリームをのせます。切り取った「蓋」の部分をもう一度かぶせ、さらに雪が降ったように粉砂糖をふりかけ飾ります。こってり濃厚なペーストと大量のホイップクリームで胸やけしそうですが、砂糖の程良い甘さで美味しくて、つい食べてしまいます。それでもボリュームがあるだけに2個食べる人はめったに見かけません。

見た目はシュークリームのようなセムラ
見た目はシュークリームのようなセムラ

セムラの歴史を読んでみたら、13世紀の北ヨーロッパ、お隣りデンマークの教会で1250年頃に小麦粉のパンを食べた事から始まります。当時、貧しい人々は小麦粉のパンを食べられず上流階級の象徴ともなっていたのでしょう。スウェーデンの初代王、グスタフ・ヴァーサ(1496年-1560年、1523年スウェーデン建国)の記録に1541年にセムラを食べたと記されていました。

当時はペーストやクリームは無く、味付けもしていませんでした。1700年代にはドイツの影響で、鍋で温めた牛乳にセムラを浸して食べられていました。アーモンドペーストとホイップクリームを使うようになったのは1800年代終わり頃からの事でした。その頃のカフェではセムラを牛乳に浸さずにメニューに出していました。

「セムラ」(Semla)

現在のセムラが登場したのは1930年頃と言われています。ところが第二次大戦中には中立国スウェーデンでも食料配給制が施行され、小麦粉、砂糖やクリームの配給制限が除かれたのは1950年の事、この頃はセムラの販売は火曜日だけと制限され、1960年代に入ってようやく解除されました。

この様にセムラのお菓子は長い歴史があるのです。我々食べる方は、カフェのウインドーにクリスマス後セムラが現れると、習慣でもないでしょうが食べたくなりカフェに入ってしまいます。

「セントラルカフェ」店員のスザンナさん、フリーダさん
「セントラルカフェ」店員のスザンナさん、フリーダさん

マルカリドの中心部にある「セントラルカフェ」では1月1日がセムラの初日です。店員のスザンナさん、フリーダさんが笑顔で迎え、「家に持って行きますか?カフェで食べますか?」と聞かれ、「食べるからコーヒーもお願い。」と頼みました。「セントラルカフェ」では初日に沢山の人が訪れたようでしたが、筆者が訪れたのは午後の遅い時間で、カフェには子供連れの1家族だけでガランとしていました。それでもクリーム入りのセムラを口に放り込み、美味しいなーと思いながら、静かな元旦を祝いました。

マルカリドの中心部にある「セントラルカフェ」

2014年1月15日
スウェーデン在住、弘前市出身、工藤信彰

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プロフィール

工藤 信彰
Nobuaki Kudo

1949年弘前市生まれ。大学時代に3年程休学し、ヨーロッパを旅したことがきっかけで、大学卒業後スウェーデンに渡る。スウェーデンにてルンド工科大学を卒業し、一般企業へ就職するが、経済学を学ぶため退職しルンド大学経済学部へ入学する。卒業後は1990年~2015年までマルカリド市役所勤務。マルカリド市議会議員(2006年~2018年)を経て、現在は環境党マルカリド党首及び、クロノベリ県議会執行役員を務めている。

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