vol.8 白の世界のあどはだり

家族の誕生日などの記念日を除いて、一年で一番好きな日が冬至です。北半球で最も昼(日の出から日没まで)が短いということは、この日を境にあとは長くなる一方。寒いのが苦手な私には、「大丈夫、あとはどんどん春に近づいていくよ」と、天が空から語りかけてくる気がして、師走の終わりころには一人小躍りしています。

何より、ゆず湯に入るのが楽しみなのですが、この冬は息子がこの香り湯にはまったために、三晩連続でバスタブにユズを投入しました。

実家では、丸のままドボンと投げ入れ、ぷかぷか浮かぶ果実を湯船でなでてみたり、もんでみたりして、香りとともに見た目も楽しんでいたのですが、夫の家庭では違ったようで、結婚してから驚いたことがあります。

弘前に越して来て最初の冬。さて、これからお風呂に入ろうかというときに、夫はユズをざくざくと切り始めたのです。

「え! ちょっと、何してるの?」と、私。

「何って、お湯に入れるから切ってるんだよ」と、夫。

「切っちゃったら、薄皮とか種とか全部出ちゃうじゃん。そのまま入れようよ」

「そのままだったら、ユズのエキス出ないじゃん」

と、いうようなやり取りがあって、結局、話し合いの末、切った果実を洗濯ネットに入れて入浴することになりました。上原家のお風呂掃除は大変だったろうなぁ、と義母の苦労を想像しながら、ニュータイプのゆず湯に浸かりました。

あれから幾冬か迎えましたが、現在でもこのスタイルです。

ちなみに、洗濯ネットは女性用の下着などを入れる、目が細かくて小さめのものがおすすめです。男性は、100円ショップのレジで誤解を招く恐れがあるので、家族や知り合いの女性に頼んで買ってきてもらいましょう。

こうすると、ユズの果汁が残らずお湯に溶け出すだけでなく、バスルームいっぱいにみずみずしい香りが充満して本当に心地良いです。家族との会話も弾んで、楽しい入浴タイムを演出してくれます。

ただし、敏感肌の人は要注意。果汁の出しすぎは、酸の刺激で肌がピリピリするので、自分に合った量でお試しください。

みなさんは、どのようにゆず湯を楽しみますか。

ゆず湯に入らなかった冬もありました。青森県が誇る名湯、酸ヶ湯温泉旅館(青森市荒川南)で過ごしたからです。

校了と校了の合間に、ふっと嘘のように休みが取れて、クリスマスに縁がない友人たちとのスケジュールも合って、宿の部屋に空きが出て……、と幸運の三拍子が舞い込んだのです。

浮き浮きして到着すると、案内された部屋にはかわいらしいプレゼントが! 県産りんごとスタッフ手作りのバースデーカードでした。友人のうちの一人がもうすぐ誕生日だったのです。

なんと素朴で、優しい歓迎でしょう。

宿の魅力は、300年以上も絶えず湧き続けている湯(酸性硫黄泉)と、歴史を物語る湯治棟の建物や風情であって、ただもう、それだけで十分なのです。そこにささやかな彩りを添える、従業員の方のお心遣いに、鉛のようにのしかかっていた疲れがすうっと地面に沈んでいくようでした。

決して派手ではないけれど、郷土の恵みが光る贈り物に、県民のおもてなしの原点をみた思いでした。

酸ヶ湯温泉のりんごは、人数分用意されていて驚きました! 蜜たっぷりで、おいしかったです

お食事にはコンポートが。いくらでも食べられそうな、やさしいお味でした

冬至のことばかり振り返ってしまいましたが、北東北で最もシバレルのは、大寒を過ぎたあたりから2月中旬くらいで、雪にまつわるイベントもこの時季に集中しています。

子どものころの冬の楽しみといえば、『小岩井農場いわて雪まつり』(岩手県雫石町)でした。首を伸ばし切らないと見上げらないほどの大きな雪像は、自宅前の雪遊びとは到底比べられないもので、興奮を誘う規模やクオリティーに、寒さも忘れて大はしゃぎしました。

山高帽子に似た美しい形のかまくらからは、ジンギスカンの焼ける香ばしいにおいがもれてきます。当時ノンアルコールではなかった甘酒からは、真綿のような湯気が立ち上り、とてつもなく甘美な飲み物のように、子どもたちの憧憬を誘ったものです。

昨年は、暖冬による雪不足で雪像制作の中止が発表されたり(後にこれは撤回され、一部制作されることになりましたが)、今冬は50周年を迎えながらも、やはり雪が足りず、雪像を減らさなければならなかったりと、このところハプニングが続いています。環境の変化によって、これからの雪の楽しみ方が変わりつつあるのかなあ、と一抹の不安を抱いたりもします。

弘前市で行われる『弘前城雪燈籠まつり』も同じく、進む温暖化を感じずにはいられません。

昨年足を運んだ方はお分かりだと思いますが、雪像のあるメーン会場は、雪解け水で巨大な水たまりに埋まりました。多くの市民の手によって苦労して作られたはずの雪像も、顔や手足が崩れ落ち、残念でしたね。

それでも絶えず訪れる人の群れに、この催しがどれだけ市民に親しまれているのか思い知らされます。

迫力あるねぷた絵を間近に見られる「津軽錦絵大回廊」や、城跡を幻想的に灯すミニかまくらやキャンドル、本物そっくりの大雪像「藤田記念庭園洋館」など見どころが満載。ファミリーに人気の滑り台も盛り上がりをみせます。

今シーズンのつぼは 「雪遊び場」でした。名前通り、ただ雪で自由に遊ぶだけの広大なフリーエリアです。

それぞれが作った雪玉を重ねて三段雪だるまを作ろう!と決めたまでは良かったのですが、熱中して、もう一段、もう一段と乗せているうちに、八段雪だるまが出来上がりました。もはや、だるまではないですね。

次はかけっこ。適当に決めた目印に向かって、早くゴールした人が勝ち。走る。転ぶ。また走る。邪魔する。倒される。倒し返す。相撲をとる。投げる。投げられる。また、走る。このループが、ひたすら繰り返されるだけ。

足もとに広がる白の世界。ただそれだけで、こんなに笑えるものか、というくらい笑いました。

通勤時間が倍になり、連日の雪片づけ(津軽語で雪かきのことです)に体がきしんで、もう雪なんて見たくない!と叫びたくなる日常から、しばし解放される、寒中のオアシスです。

大雪像「藤田記念庭園洋館」には、アニメ『ふらいんぐうぃっち』とコラボレーションした
プロジェクションマッピングが投影されました。夜空に弾ける「弘前冬花火」も観客の胸を熱くします

「津軽錦絵大回廊」は夏に運行した本物のねぷた絵が華やか。
個人的には、この2〜3倍の長さがあっても良いなと思います

高さ新記録の雪だるま(?) こういう競技があっても面白そう!

そうそう、弘前に降る雪は青いって知っていますか。桜の剪定もはじまり、いよいよ春はそこまで……と、思っていると、突然背中を丸めたくなる日に逆戻りするのが、津軽の早春です。そんなときは少しだけ立ち止まってみてください。すくい取った手のひらの中に、美しい雪の色彩が映ります。これ、本当ですよ。


上原香織 プロフィール

上原香織

盛岡市生まれ。土手町「鮨たむら」女将。出版社、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動。結婚、夫の転勤を機に弘前市に転居する。現在は夫婦ですし店を切り盛りしながら、青森のおいしいものを探索中。趣味は観光と登山。一児の母。

「鮨たむら」の店舗情報
新しいウィンドウで開きます http://www.seijiro.jp/sushitamura/index.html

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