投稿日:2026/9/29
ネパールから陸路でインドに入国しました。2018年、2023年以来となる3度目の訪印です。ラクソール、ビルガンジ、コルカタ、プリー、ブバネーシュワル、ハイデラバード、ポンディシェリー、ナーガパッティナムの順に、これまで行ったことのないエリアを中心に巡りながら、インド亜大陸を南下しました。
そして、ナーガパッティナム-ジャフナ航路のフェリーでスリランカへ入国。ジャフナ、アヌラーダプラ、トリンコマリー、ポロンナルワ、シーギリヤ、ダンブッラ、キャンディ、ヌワラエリヤ、エッラ、コロンボ、マータラ、ゴール、エルピティヤを訪れ、飛行機で再びインドへ。
今回は、エルピティヤまでの出来事を、フルーツに絡めて書いていきたいと思います。
バックパッカーの間では、インドはしつこい客引き、要求の多いチップ、ぼったくりなどが多いという理由から、エジプトやモロッコと並んで「世界三大ウザい国」と呼ばれることがあります。
ですが、タミル・ナドゥ州やケララ州などの南インドは、経済的に安定しており、教育水準も高い地域です。そのためか、外国人に執拗に声をかけてくる人も比較的少なく、個人的には「ウザい」と感じる場面はほとんどありませんでした。
スリランカは、第二次世界大戦後の1951年、サンフランシスコ講和会議において、日本への賠償請求権を他国に先駆けて自発的に放棄し、日本の独立を支持した歴史的背景から、親日的な国として知られています。外務省の公式情報でも「伝統的な親日国」として紹介されているほどです。
実際、日本からの旅行客だということを伝えると、好意的な反応を示してくれる人が多くいました。シーギリヤ・ロックや仏歯寺、紅茶やシナモンのプランテーションなど見どころも多く、観光していて飽きることがありませんでした。フルーツ紀行的にも、かなり撮れ高のある旅になりました。
まずインドですが、「HRMN-99」というりんごをずっと探していました。
HRMN-99は、インド北部のヒマーチャル・プラデーシュ州の農家、ハリマン・シャルマ氏が育成した低温要求量の少ないりんご品種です。1999年頃、食べたリンゴの種から偶然生えた実生が起源とされます。
通常のりんごは、冬に一定時間の低温にさらされることが開花・結実に必要なため、インドではヒマラヤの高地が主要な産地でした。しかし、HRMN-99は比較的温暖な平地や亜熱帯地域でも開花・結実が可能で、夏季40~45℃程度の地域でも栽培できるとされています。
収穫期が6月頃と早いことも特徴で、一般的なヒマラヤ産りんごより早く市場に出すことができます。現在では、ヒマーチャル・プラデーシュ州だけでなく、マハーラーシュトラ州、ウッタル・プラデーシュ州、カルナータカ州、マニプール州などにも栽培が広がっています。
一方、常温での保存期間は10~12日程度とされ、長距離流通には課題があります。日本のりんご「恋空」と少し似てますね。
HRMN-99は、農家の偶然の発見から始まり、公的研究機関による評価・普及を経て栽培が広がった点も特徴的です。「りんごは寒冷地の果物」という常識を暖地へと広げた、農家発のイノベーションといえます。
そんな、イノベーティブなりんごを食すべく、露店やスーパーで懸命に探しましたが、結局見つけることができませんでした。残念…。
続いて、撮れ高の多かったスリランカに話題を移します。
スリランカでは、伝統医療「アーユルヴェーダ」とも結びつき、多くのフルーツが薬用植物として古くから利用されてきました。まさに医食同源です。
商店やスーパー、マーケットでは、南の島の暖かな気候が育む、多種多様で色彩豊かなフルーツが売られていました。見たことないのフルーツが並ぶなか、最も興味をそそられたのがバナナです。
スリランカには20種類を超えるバナナがあると言われています。
日本では、輸入バナナの7〜8割がフィリピン産で、そのほとんどがキャベンディッシュ系です。シェア約1割を占めるエクアドル産も主にキャベンディッシュ系です。弘果の「ハローキティーバナナ」もキャベンディッシュ系ですよね。
そう、日本で売られているバナナは、ほぼキャベンディッシュ系と言っても過言ではありません。
一方、スリランカは20種類以上のバナナがある…。羨ましいです。
せっかく色々なバナナを食べられる貴重な機会なので、食べ比べをしてみました。
ねっとり、もっちりとした食感であったり、独特な芳香があったり、強い甘さがあったり。それぞれ味や食感、香りが異なっていて、バナナの奥深さを感じることができました。個人的にはシュガーバナナが一番好きでした。値段も一番安かったことを考えると、コスパ最強のバナナと言えます。
ちなみに、シュガーバナナをはじめ、サワーバナナ、レッドバナナ、エレファントバナナ、ロングバナナといった名前、いずれも流通上の通称で、必ずしも正式な品種名を意味するものではありません。
難しい話になりますが、バナナの多様性は、「ゲノム群→品種群→品種」という階層で理解すると分かりやすいです。
食用バナナの主要な祖先は、A=Musa acuminata、B=Musa balbisianaの2種。これらの組み合わせと倍数性によって、AAA・AAB・ABBなどの「ゲノム群」が生まれます。さらに、その中で共通の祖先をもつ近縁な栽培系統が「品種群」を形成し、その下に個々の品種があります。
また、バナナは種子でなく株分けによるクローン増殖が中心で、突然変異と人間による選抜が繰り返されることで、多様な品種が生み出させてきました。
これまでのバナナに関する話をAIにまとめてもらいましたので、下の画像を参照ください。
次に興味をそそられたのは、パイナップルです。
スリランカのパイナップルは、中央部から南西部を中心に生産され、国内で広く消費されているほか、輸出用にも栽培されています。品種・系統は一つだけではなく、モーリシャス、キューなどが知られています。なかでもモーリシャス系はスリランカで広く流通しており、小~中型で、甘味と酸味のバランスがよいのが特徴です。
大きくて見栄えのよいものだと、1個Rs400〜Rs700(≒200円〜350円)ほど。小さいものは1個Rs100(≒50円)で売られていました。写真でも伝わると思いますが、めちゃくちゃ美味しかったです。腹を下すまで食べ続けました。
お次は、ウッドアップルという果物について。みなさん、ご存知ですかね。
ウッドアップルは、南アジア原産のウルシ科の果実で、スリランカでは身近なローカルフルーツとして親しまれています。
特徴は、直径10cmほどにもなる非常に硬い木質の殻。これが「ウッド」の由来です。一方、「アップル」はりんごの仲間という意味ではなく、丸みを帯びた果実の形がりんごに似ていることから付けられた名前です。つまり、「木のように硬い、りんご型の果実」という意味になります。
殻を割ると、茶褐色で粘り気のある果肉が現れます。甘酸っぱく、独特の発酵したような強い香りがあります。普通なら「腐ってる?」と思ってしまいそうなグロテスクな見た目ですが、食べてみるとけっこう美味しい。個人的にはバナナに近い味がしました。スリランカではジュースにして飲むのが一般的なようです。
妻の友人宅に数日間ホームステイさせてもらいました。
お宅があるのはスリランカ南部に位置するエルピティヤという町。低地の温暖で湿潤な環境がシナモン栽培に適しているようで、周辺にはシナモンのプランテーションが一面に広がっていました。
ここで栽培されているのはスリランカ固有のセイロンシナモン。ご近所さんがセイロンシナモン農家だったので、園地や生産過程を見学させてもらいました。
シナモンには大きく分けて「セイロンシナモン」と「カシア」があります。
セイロンシナモンはスリランカ原産のシナモンで、樹皮が薄く、内側に何層も巻き込んだような形をしており、淡い色合いが特徴です。香りは甘く繊細で、柑橘類を思わせる爽やかさがあります。
一方、カシアは中国、ベトナム、インドネシアなどで生産され、樹皮が厚く硬いのが特徴です。香りや味もより強く、辛味や刺激があります。
一般的に「シナモン」として流通しているものにはカシアが多く、日本で販売されている小瓶入りの粉末タイプにも、カシアが使われている場合が多いです。
また、両者にはクマリンという成分の含有量にも大きな違いがあります。クマリンは過剰摂取すると肝臓への負担が懸念される成分で、セイロンシナモンは含有量が非常に少ない一方、カシアには比較的多く含まれています。
お察しの通り、セイロンシナモンの方が高価で、カシアの数倍〜10倍になることもあるそうです…。そんな高価なセイロンシナモンをお土産でたくさんいただきました。すごく嬉しい反面、旅をしながらどう消費しようか悩んでいます笑
園地や生産過程を見学させてもらって驚いたのが、樹皮だけでなく、葉っぱや茎からもシナモンの香りがすること。そして何より印象的だったのが、シナモンが単なる香辛料ではなく、農家の暮らしや土地と結びついた農産物として存在していたことです。
一本の木から樹皮を剥ぎ、乾燥させ、香り豊かなシナモンへと仕上げていく…。セイロンシナモンは単なる商品ではなく、その土地の誇りなのだということが伝わってきました。
最後に、スリランカの社会問題について。
スリランカでは、「ヒューマン・エレファント・コンフリクト(Human-Elephant Conflict)」と呼ばれる、人間とゾウの衝突が深刻な問題となっています。
ゾウが集落に入り込み、トウモロコシやコメ、バナナなどの農作物を食い荒らしたり、貯水タンクや住居などの建物を破壊したりする一方、住民が自衛のために設置した違法な高電圧の柵によってやゾウが感電死したり、農作物被害の報復として、銃、弓矢、毒物などによってゾウが殺傷されるケースも問題になっています。
2024年だけで、死者は約150人、約400頭のゾウが命を落としたとされています。
野生のゾウは非常に知能が高く、爆竹や電気柵などの単純な防除策にも適応してしまうことがあります。
そこで、人間とゾウを完全に分離するのではなく、ゾウの移動ルートを確保するなど、同じ環境の中で安全に共存するためのアプローチへとシフトしているようです。
青森・弘前でも、ツキノワグマによる人的・経済的被害が発生しています。特にりんご産地である弘前では、農作物への被害も無視できません。
動物と人間の生活圏が重なることで生じる問題という意味では、スリランカのゾウ問題と青森のクマ問題には、考えるべき共通点があるのかもしれません。
スリランカで行われているゾウとの共生策が、今後の青森におけるクマとの共存を考えるうえでも、何らかの参考になるかもしれません。
1997年8月1日、神奈川県横浜市生まれ。
小学校の教員として働くなかで、地域おこし協力隊という仕事と美味しいリンゴにめぐりあい弘前にI ターン移住。
さまざまな品種を食べたり、副業として生産作業に従事したり、シードルアンバサダーを取得したりしてリンゴの魅力を多面的に味わっています。
「りんご大学」では、溢れんばかりのリンゴへの愛と好奇心を活かしてリンゴの情報を発信中。現在はキャリアブレイクとして世界漫遊の旅に出ているので、リンゴを主とした世界のフルーツ事情も発信しています。
【資格・免許など】
教員免許[小学校、中学校(社会)、高等学校(公民)(地理歴史)]、社会教育士、自然体験活動指導者、国内旅行業務取扱管理者、全国地域リーダ養成塾修了(37期)、世界遺産検定1級
