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第25回 リンゴの不和合性

 自家不和合性は、被子植物が進化の過程で健全な子孫を維持して多様な環境条件のもとで、生息地を拡大してゆくために発達させてきた仕組みのひとつであるといわれている。

 自家不和合性は古くから知られていたが、実験的に初めて確かめたのはダーウィン(1876)である。果樹において自家不和合性を初めて見いだしたのは、米国のセイヨウナシであった(1876)。

 わが国では明治初期に、リンゴ、セイヨウナシ、オウトウなどの西洋の果樹が導入された。これらの果樹の自家不和合性についての調査が北海道大学の星野によって1908年から行われ、リンゴ16品種の自家結実率の範囲は0.7~21.8%であると日本で初めて報告した(1919)。

1.不和合性による不結実

 リンゴの花は、一つの花に雄ずいゆうずい(おしべ)と雌ずいしずい(めしべ)が共存する両性花である(図1)。

(図1)両性花の模式図

 雌雄両器官が完全な機能を有し、成熟期間も一致しているにもかかわらず、受精が行われず、結実しない現象を不和合性という。

 同一品種間において不受精になる場合を自家不和合性という。

 ある交配組み合わせの場合だけが不受精になる場合を交雑不和合性(他家不和合性)と呼んでいる。

(1)自家不和合性

 リンゴの品種は大部分が自家不和合性を示し、自家結実率は低い。

 石山らは、リンゴの交雑和合性を検討する調査の中で、青森県りんご試験場に栽植されている27品種について、自家結実率も調査している。27品種の66.7%にあたる18品種が結実率10%以下であったと次のように報告している(1995)。

 特に、「ガラ」、「北の幸」、「世界一」、「千秋」、「リチャード・デリシャス」は全く結実しなかった。表1は、青森県のりんご生産及び販売の基幹となる基本品種の自家結実率である。

(表1)基本品種の自家結実率(石山ら,1955)

品種名 結実率(%) 結実率の範囲 試験年数 一果当たり
種子数
つがる 0.5 0~2.0 2 0.5
ジョナゴールド 7.0 - 1 1.3
王林 18.7 0~24.0 3 1.3
ふじ 2.2 0~6.0 6 2.1

 自家結実率が例外的に高かったのは「恵」で、6か年の平均結実率は59.4%であった。自花交配による充実した種子数は2個前後で、「恵」の4.2個を除けは、他家授粉に比較すると非常に少なかった。

 「恵」の自家結実性は、自家和合性と単為結果性の両方に起因しているといえる。近年、「恵」は授粉樹の選択や人手授粉が必要のない自家結実性品種育種のためのすぐれた素材として注目されている。また、「恵」は風害にも強い。(注:「恵(国光×紅玉)」は、青森県りんご試験場で育成され、1950年に命名登録された)

 リンゴの結実には、樹の栄養状態、花芽の素質、交配前後の環境条件などが影響するので、年によるふれが大きい。これらのことから、結実率が何%以上であれば自家結実性があり、何%以下であれば自家不和合性であるかの明確に判定するのは困難であると考えられる。

 自家結実率20~30%が自家不和合と和合との境界領域で30%以上を自家和合とし、1果当たりの種子数が、1.2個以下を不和合、1.2~3個以下が和合と不和合との境界領域、3個より多い場合を和合とするのが妥当であるとされている。

異なる品種のリンゴ樹を植え受粉を促す

(2)自家不和合性の仕組み

 一般に、自家不和合性は一対のS遺伝子によって支配され、同じ品種だけでなく、違う品種であっても遺伝子型が同じ場合は不和合となる。これは、花柱(めしべ)で発現する雄ずいS遺伝子と花粉管で発現する花粉S遺伝子が一致すると花粉S遺伝子の産物が雌ずいS遺伝子の産物によって分解され、花粉管の伸長が阻害されると説明されている。図2は自家不和合性を示す模式図である。交雑不和合性の仕組みも、自家不和合性とほぼ同様であると考えられている。

(図2)自家不和合性を示す模式図

(3)交雑不合性

 太平洋戦争後、日本では非常に多くのリンゴ品種が育成された。これらの品種は、明治から大正時代に外国から導入された「国光」、「紅玉」、「デリシャス」、「ゴールデン・デリシャス」及び日本原産といわれる「印度」やこれらの品種の交雑によって育成された「ふじ」、「つがる」などを親としている。したがって、新しい品種の多くは、かなり近い血縁関係にあることから、授粉樹の選択や授粉用花粉の際には、品種間の和合性はリンゴ栽培にとって重要である。

 りんご生産指導要項(2020-2021)には、32品種のS遺伝子型(自家不和合性遺伝子型)と、品種間の交雑和合性を表示している。また、最新19品種のS遺伝子型も記載している。表2はリンゴ主要品種のS遺伝子型である。

(表2)リンゴ主要品種のS遺伝子型(自家不和合性遺伝子型)

S遺伝子型 品 種
S1S3 シナノゴールド、ぐんま名月
S1S7 きおう、シナノスイート
S1S9 早生ふじ、ふじ
S1S28 星の金貨
S1S7S9 北斗
S2S7 王林
S2S9 トキ、春明21、金星
S2S3S9 ジョナゴールド
S2S3S20 陸奥
S3S7 未希ライフ、つがる
S3S9 夏緑、世界一
S7S9 紅玉、千雪
S9S28 恋空
  • 「ふじ(S1S9)」の花粉では結実しない品種
     「ふじ」、「早生ふじ(ひろさきふじ、昂林、紅将軍、涼香の季節など)」、
     「秋陽」、「北斗」、「安祈世」、「アルプス乙女」、「ハックナイン」
  • 「王林(S2S7)」の花粉では結実しない品種
     「王林」、「彩香」
  • 「つがる(S3S7)」の花粉では結実しない品種
     「つがる」、「未希ライフ」
  • 花粉が使えない品種
     「ジョナゴールド」、「陸奥」、「北斗」、「彩香」、「秋陽」、「おいらせ」
     は三倍体のため花粉稔性が低い
     「星の金貨」は花粉量が少ない

参考資料
1.石山正行ら(1955)リンゴの交雑和合性.青森りんご試報.28:1-21
2.杉浦明ら(2002)自家不和合性の果樹生産における問題点と現状 植物の生長調節.37(2)156-166
3.りんご生産指導要項(2020-2021).青森県りんご生産指導要項編集部会編(公財)青森県りんご協会

(2021/9/14)

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プロフィール

一木 茂

元青森県りんご試験場長。現在はりんごについて広めるべく、筆を執る。

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