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第29回 リンゴ園の水害

 2002~2021年の20年間に、青森県においてリンゴに影響を与えた気象災害の年別発生件数は水害9件、風害7件、ひょう害7件、雪害5件、霜害5件であった。被害面積、被害額の多少はともかく水害の頻度は高い。水害の月別発生件数は9月が最も多く5件で、そのうち4件は台風に伴う豪雨によるものである。

 近年では、2013年9月15~16日の台風18号の記録的豪雨により、津軽地域の岩木川や県南の馬淵川が氾濫し、流域のリンゴ園555haが樹冠浸水し、大量の果実腐敗や落果、樹の倒伏等が発生した。山手のリンゴ園でも土砂崩れによる園地崩落などの被害があった。被害額は12億4,200万円に達した。

〇本年8月、過去最大規模の水害

 津軽地域では8月3日に、県内初となる線状降水帯が確認され、岩木川流域を中心に広範囲のリンゴ園で浸水、冠水の被害が発生し、さらに9日の大雨で被害はさらに拡大した。

 特に被害が集中したのが、一級河川の岩木川と平川の合流地点に近い藤崎町白子や弘前市三世寺の一帯から岩木川下流のつがる市柏周辺にかけての全長約15kmの河川敷である。

8月3日浸水被害のあったリンゴ園
「写真提供:会津宏樹氏(『会津宏樹の高密植栽培日記』著者)」

 9月22日時点での被害面積は645ha、被害額は22億4,408万2,000円である(表1)。2013年の水害と比べ、現時点で被害面積は約90ha、被害額は約10億円上回っている。

(表1)2022年8月に発生したリンゴ園水害の被害規模

被害面積(ha) 被害額(円) 備考
弘前市 303.7
樹幹浸水276.1
園地浸水27.6
8億2,560万 確定値
藤崎町 68.59 2億4,316万8,000 確定値
板柳町 約120 約4億8,000万 8月末時点
鶴田町 58.92 2億5,209万2,000 9月22日時点
つがる市 89.4 3億737万6594 確定値

資料:りんごニュース2022年10月5日,第3243号.(公財)青森県りんご協会

 被害面積に比較して被害額の差が大きい要因として、今回の方が冠水の深さが高く、冠水時間も長かったこと、リンゴの単価高などが複合的に作用したものと考えられている。

水害の発生とその影響

 水害の発生は1日の降水量が80mm以上になった時に被害が出始めるとみられ、これが150mm以上になると河川が増水し危険な状態になり、低地の河川流域のリンゴ園では水害が発生する。

 水害の様相がひどい場合は樹の流失、倒伏などを引き起こしたり、果実の腐敗が起こる。樹体への影響は時期、湛水日数、園地の土壌条件、樹勢などによって異なる。

湛水(たんすい):たまった水に農作物が浸かってしまうこと

 青森県りんご試験場(現:青森県産業技術センターりんご研究所)は、1975年8月に岩木川流域のリンゴ園に発生した水害による果実、根系、樹体への影響を調査した。

●果実への影響

 樹冠浸水で果実に泥水が付着すると、約7日後頃から果実疫病菌の感染による果実の腐敗がみられ、ひどい場合は落果する。水害により果実肥大の停滞、果実糖度・硬度の減少、貯蔵性の低下にもつながる。湛水が長引くと、当然のことながら着色不良果の発生が多くなる。

 青森県産業技術センターりんご研究所は、2022年8月の大雨で冠水した岩木川沿17園地のリンゴ腐敗果率を調査した結果、大半の園地で90%以上の果実が腐敗していることを明らかにしている。

 腐敗果率の高い要因として、2度冠水したことと、冠水期間が2~3回と長かったことが考えられるとしている。

浸水被害により泥水が付着した樹や果実
「写真提供:会津宏樹氏(『会津宏樹の高密植栽培日記』著者)」

●根系への影響

 湛水、堆積土による根系への被害も大きい。リンゴ園の湛水が1日だけであれば、リンゴ樹の根は赤褐色で大きな影響はみられない。

 湛水日数が10日、14日と長期にわたると黒色を帯びた根が多く、ひどい状態では腐敗がみられる。

 湛水日数と根の腐敗の関係は、園地の土壌条件によって異なる。下層に川砂のある園地より粘土質の園地の方が腐敗がひどく、時期的には夏季の温度の高い時期の湛水の影響は大きい。

 堆積土の深さと根色の変化は、堆積土が40cmの園地では5cmの園地より黒色化が著しい。5cm程度の堆積土であれば、早期に水が引くと根系への影響は少ないとみられる。

●樹勢、作柄への影響

 短い湛水であれば樹勢、作柄には大きな影響はみられないが、10日以上の湛水では作柄のふれが大きく、樹勢の弱い樹ほど作柄の劣る傾向がみられる。

 長期の湛水や多量の堆積土は根系に悪影響を及ぼし、葉への泥の付着で光合成が阻害されることと相まって、次年度の開花、樹勢に大きな影響を及ぼす(表2)

(表2)湛水日数と次年度の開花・樹勢の関係(成田,1984)

湛水日数 開花率*
(%)
1花そう当たり
花数
新梢長**
(cm)
葉色の分布割合**
普通(%) うすい(%)
1日 71.4 4.5 19.5 80.0 20.0
10日 36.7 3.7 13.7 16.7 83.3
14日 40.6 3.8 14.7 30.0 70.0

(注)*5月20日,**6月15日調査

 開花量は長期湛水園で明らかに劣り、1花そう当たりの花数も少ない傾向がみられる。新梢長も劣り、6月以降になっても葉色はうすい状態である。

参考資料
・成田春蔵(1984)新編リンゴ栽培技術(浅川力編)養賢堂:371-373
・りんご生産指導要項(令和4年改訂版)青森県りんご生産指導要項編集部会編(公財)青森県りんご協会:266-291

(2022/10/26)

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プロフィール

一木 茂

元青森県りんご試験場長。現在はりんごについて広めるべく、筆を執る。

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