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第28回 リンゴ園の水分管理

 1931年より続けている青森県産業技術センターりんご研究所(青森県黒石市)の気象観測データによると、リンゴ生育期(4~9月)の降水量の平年値(1991~2020年)は582.6mmである。

 しかし、ここ10年間における生育期の降水量は表1のようにかなりの変動がある。2019年の340.0mm、2021年の367.0mmはそれぞれ観測史上第1位、第3位の少雨年であり、2013年の805.0mm、2018年の796.0mmはそれぞれ観測史上第6位、第8位の多雨年であった。

 この10年間、リンゴの生育最盛期(6~8月)において2週間程度の連続干天日数(降水量5mm未満)は毎年のように現れている。20日を超える連続干天日数は2~3年に1回程度出現している。一般に連続干天日数が20日以上の場合を干ばつという。

(表1)生育期(4~9月)の降水量の変動(りんご研究所)

降水量
(mm)
観測史上順位
少雨年 多雨年
2012 452.5 14
2013 805.0 6
2014 709.5 11
2015 427.0 11
2016 531.0
2017 569.0
2018 796.0 8
2019 340.0 1
2020 735.5 13
2021 367.0 3
平年値 582.6

(注)平年値(1991~2020年)

1.リンゴ園の干ばつ

 青森県ではリンゴの生育に必要な水分よりはるかに多量の降水量があるので、一般には干ばつ対策の必要性は少ないと考えられていた。

 近年、春季から夏季にかけての高温、乾燥が続き、根域の深いマルバ台の普通栽培においても干ばつの影響による果実生育の抑制や光合成の抑制および養分供給能力の低下がみられ、樹勢の低下に伴って根の病害である紋羽病の被害を助長させている。

 特に、苗木や根域の浅いわい性台木利用の密植・高密植栽培では干ばつの影響を受けやすい。

2.時期別の土壌乾燥とリンゴ樹の生育、果実肥大、着色

 青森県りんご試験場(現:りんご研究所)で、降雨遮断施設内に栽植したM9台「ふじ」を供試し、生育前期(5~6月)、生育中期(7~8月)、生育後期(9~10月)のそれぞれの期間における土壌乾燥の影響を検討した(1984年)。

 その結果、標準区(pF1.5~2.3に保持するよう適宜かん水)に比べ、土壌乾燥区(pF2.5~2.8)の平均新梢長と果実肥大は5~6月乾燥区が劣り、着色は9~10月乾燥区が勝った(図1~3)。

(図1)時期別土壌水分処理と平均新梢長
(図2)時期別土壌水分処理と一果平均重量
(図3)時期別土壌水分処理と果皮のアントシアニン

 このことから、リンゴ園の水分管理として生育前期はできるだけ土壌水分を潤沢に保持し、中期は生育阻害水分点(pF3.0)を超えない程度に、そして後期は土壌乾燥を促進させるような管理が望ましいとした。〔青森県りんご試験場創立70周年記念誌(2021).近年の研究成果100選(1980~2000年)より〕

 注:pFは土壌が水を吸いつけている力を表す単位で、pF値が大きいほど土壌中の水分量が少ない

3.かん水

●かん水の必要性

 夏季の晴天日には、リンゴ園から1日当たり約6mm(10a当たり6t)の蒸発散量がある。蒸発散量は葉からの蒸散量と地表面からの蒸発量を加えた量である。

 降雨後の土壌中の有効水分量(根が吸収可能な水分量)は、土壌の深さおよび土性によって異なる。例えば壌土の場合、深さ30cmの土層に含むことのできる有効水分量はおよそ30mmである。したがって、1日6mmの蒸発散量が5日間続くとすれば有効水分が消費されて、かん水が必要になる。

●かん水の時期とかん水量

 かん水の時期を判断する方法としては、テンシオメータを活用するのが最も便利で確かである。テンシオメータを幹から80~100cm離れた深さ30cmの位置に埋没し、示度が水柱で60cm(pF2.8)を示したらかん水を始める。

 テンシオメータがない場合は、干天日(降水量5mm未満の日)が2週間程度続いたらかん水を始める。

 1回のかん水量は20mm(1m3当たり20ℓ)程度とする。

●かん水の方法

 かん水の方法としては、スピードスプレーヤー、スプリンクラー、ホースを利用した散水かん水法や、小孔やエミッターと呼ばれる浸出ノズルのついたチューブを利用した点滴かん水方法などがある。施設を利用したかん水方法としては、設置経費や労力面からみても点滴かん水法が有利であり、節水のみならず、密植・高密植栽培の栽培様式に合ったかん水方法である。

リンゴ園に設置された点滴かん水設備

4.地表面からの蒸発散防止

 リンゴ園の標準的土壌管理法として、多年性牧草や自生の雑草で地表面を被覆する草生法が実施されている。しかし、地表面からの蒸発散による土壌水分の損失が多いことから、草丈が15~20cmにならないよう早めに刈り取りを行い、樹冠下に敷草する。また、樹冠下は清耕を維持し、幹を中心に2m四方に16kg(4kg/m2)の稲わらをマルチする。

(2022/7/16)

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プロフィール

一木 茂

元青森県りんご試験場長。現在はりんごについて広めるべく、筆を執る。

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