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第22回 雪とリンゴ

 世界のリンゴ主要産地の中で、青森県の津軽地方ほど雪の多い所はない。外国ではこのくらい雪の多い所では、夏の気温も低く農業不適地であり、人口を養う力がないため人間は住んでいない。

1.リンゴ樹の雪害

 青森県の津軽地方では最深積雪が1mを超えると幼木などに雪害が出始め、1.5mを超えると成木でも雪害がみられるようになる。

 リンゴ樹の雪害は大きく3種に分かれる。樹上に積もる冠雪の重さによる被害、積雪の沈下により起こる被害、傾斜地の雪崩によるものがある。一般には2月から3月にかけての「しまり雪」による沈降力による被害が多い。

雪害を受けたリンゴ樹

〇雪害の様相

 リンゴ樹の直接的雪害として幹の裂開、枝折れなどがある。これらの被害は単年度のみの減収にとどまらず、数年にわたって影響するので、リンゴ経営にとって深刻な問題となる。雪害の二次的被害として樹体の傷口の増加による腐らん病、銀葉病の発生、融雪の遅れによる農作業の停滞、融雪水による土壌、肥料の流亡が上げられる。さらに多雪年では野ネズミ、野ウサギが芽や樹皮を食い荒らすことが多く、雪害の様相はきわめて多様である。

〇りんご研究所の最深積雪

 りんご研究所(青森県黒石市)では1931年から積雪深を観測しているが、近年において最深積雪が130cmを超えた豪雪年を表1に示した。

 最深積雪が過去最高の160cmを記録した(注:2013年の最深積雪は180cmとなり、観測史上最高となった)2005年における青森県の雪害被害面積は6,751ha、被害金額は120億余りの大被害となった。

(表1)近年における豪雪年の最深積雪と消雪日(りんご研究所)

年月日 最深積雪(cm) 消雪日
2005年3月2日 160 4月12日
2006年2月12日 133 3月28日
2012年2月28日 166 4月15日
2013年2月26日 180 4月8日
2015年2月5日 131 3月29日
平年 97 3月29日

注:平年1986~2015年の30年平均

2.雪の恩恵

 雪害があるものの、青森リンゴは雪の恩恵を受けて今日の基礎が築かれたことを忘れてはならない。

 融雪水は土壌に保持され、リンゴの生育期間中の水分供給源となる。傾斜地や台地の水利が不便な地帯においては、リンゴ生産に最も直接的な影響を与える病害虫防除のための薬剤散布に必要な水の供給源となる。積雪がなかったら青森リンゴの栽培面積の大部分を占める傾斜地、台地での栽培は大きな制限を受けたに違いない。

〇雪と「国光」

 青森県において、リンゴの品種別統計が初めて公表されたのは1911年であるが、当時の品種別本数割合は「国光」47.6%、「紅玉」30.3%で、すでにこの時代で「国光」は主力品種の位置を占めていた。その後、1960年代の中頃まで「国光」は特に津軽地方では全生産量の60%以上を占める主力品種であった。

「国光」は津軽地方に雪が降る11月上・中旬に収穫されることから、だれが名付けたか明らかでないが「雪の下」と呼ばれた。この時期の気温は5℃付近まで下がっており、果実は十分に冷やされている。「国光」には樹上で凍っても、氷点以下で解けると果肉は変質しない特長もある。

「国光」

 津軽地方の根雪は12月上旬から3月中旬まで続き、約4ヶ月にわたり夜温は0℃以下となり、リンゴ貯蔵の好適条件となる。いわばこの期間の寒さと雪が天然の冷蔵庫の役目を果たした。

「国光」を普通倉庫内に貯蔵しておけば、翌年3月まで鮮度を少しも落とすことなく、しかもその間ゆっくりと追熟が進むので、「雪の下」本来の味が出てくる。そろそろ花だよりも聞かれるほどに暖かくなったその時期に東京、大阪の大消費地に供給される果物は、酸っぱい「ナツミカン」か柔らかくなったナシの「長十郎」しかなかった。そのなかに鮮度も高く、追熟の進んだ「雪の下」が登場すれば、それこそ市場を制圧するに十分な資格があった。

「国光」は雪の下で収穫され、雪の下で貯蔵された果物の王様といわれるようになった。「国光」がなければ、今の青森リンゴは存在しなかったのではないかとさえ考えられる。今に続いているリンゴ栽培のノウハウも「国光」で培われたものが数多く残っている。

〇雪の利用

 雪を積極的に利用した例として簡易冷蔵庫があった。倉庫の壁から1mくらいの間隔をあけて、すかし板の柵を作り壁と柵の間に雪を積み上げ、その内側にリンゴを貯蔵する方法である。少し取り扱いに注意すれば2℃程度の温度が保たれ、5月までりんごの貯蔵が容易にできる。雪を冷熱エネルギーとして、早くも1910年頃から利用した先人の知恵である。

参考資料
1)波多江久吉(1976)雪とリンゴの百年.
斎藤康司編 波多江久吉 りんご著作選集129-142
青森県りんご協会発行(1996)
2)りんご指導要項(2020)青森県りんご指導要項編集部会編.
青森県りんご協会

(2021/2/26)

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プロフィール

一木 茂

元青森県りんご試験場長。現在はりんごについて広めるべく、筆を執る。

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