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第20回 ヨーロッパにおけるリンゴの栽培様式

1.大樹疎植から半密植、密植栽培へ

 第2次世界大戦が終わるまで、ヨーロッパのリンゴは主に実生台(リンゴの種子をまいて作った台木)に接いで栽培されていた。

 リンゴの実生台樹は樹勢が強く、樹の生長は旺盛で樹高が6~8mを超える大木になる。

 写真は筆者が1996年10月にフランスで見た密植栽培に更新されたリンゴ園の一角に残されていた「ゴールデン・デリシャス」である。

フランスの「ゴールデン・デリシャス」の大木

 図1はヨーロッパの疎植大木リンゴ樹と青森県の伝統的なリンゴ樹の違いを示したものである。

図1 ヨーロッパの疎植大木リンゴ樹(右)と青森県の伝統的リンゴ樹(左)

 ヨーロッパの大樹疎植樹の果実は樹冠の外側にしか良いものがならず、単位面積当たりの収量もあまり高くなかった。長いハシゴを使っての作業は大変で、落下して怪我の危険を伴う。

 それに反して、青森県の伝統的な樹形は樹冠が扁平で水平方向の広がりが大きいが、樹高は4m程度に抑えられている。樹冠のすみずみまで光が入り、1.8m程度のハシゴを使って女性でも諸作業がやれるように工夫された樹形である。

 リンゴの効率的生産に関する研究から、リンゴ樹は樹冠が大きく幅が広くなるほど樹冠の光環境は悪化し、相対的日射量が30%以下になると花芽が形成されないことが明らかにされた。また、大型樹は光合成産物の果実への分配率が低く、反対に小型樹は光合成産物の果実への配分率の優れることも明らかにされた。

 これらの研究成果から、ヨーロッパのリンゴ産地では、過去60年以上にわたり栄養繁殖が可能な半わい性台木やわい性台木を用いて樹体を小型化した密植栽培(注:欧米ではわい性台木という用語はあるが、わい化栽培という用語はない)を導入し、経済的に成功してきた。

〇ヨーロッパにおけるリンゴの栽培様式の変遷

 小池洋男はその著書2)の中で、ヨーロッパにおけるリンゴの栽培様式の変遷を以下のように述べている。

 1930年代、オランダとイギリスで世界的に先駆けた密植栽培の取り組みが始まった。樹高6~8mの大型リンゴ樹の7~10本/10a植え疎植栽培から、樹高4~5mで、やや小型化したリンゴ樹の25~35本/10a植え栽培方式への変化である。

 1950~1960年代には、半わい性台木(MM106やM7)を用いて、より小型化させたリンゴ樹の30~50本/10a植え栽培様式が発展した。半わい性台木を用いた栽培では、結実時期が早まり、生産力も向上して管理作業が容易になった。

 1970年代初期には、オランダで、M9台木を用いた100~200本/10a植え密植栽培への取り組みが始まった。それ以来、世界のリンゴ生産国では、種々の工夫を加えながら多様な方式による密植栽培への取り組みが行われてきた。

 2000年代初期になると、半わい性台木を用いた半密植栽培(100本以下/10a植え)が衰退し、M9台木を用いた密植栽培(列間4mと樹間1.5~2m、125~167本/10a植え)の普及が加速した。この場合の樹の仕立ては、側枝を水平に誘引して主幹延長部の切り替えで主幹部をジグザグ状に育てることで、樹高を2.5~3mに抑えるスレンダースピンドルである(図2)。

 この密植栽培の普及には、わい化効果と早期結実性の優れるM9台木の系統選抜、ウイルスフリー化と、フェザー(羽毛状枝)が多発した苗木の育成技術の確立などが大きく寄与している。

図2 スレンダースピンドル仕立てとトールスレンダースピンドル仕立て
(青森県:りんご指導要項2020-2021)

2.密植から高密植へ

 近年、さらなる収量増と省力化を図る栽培様式として、2005年以降イタリア・南チロルでは側枝を下垂誘引して樹幅を狭め(列間3m、樹間0.8~1.0m)、樹高はやや高めの3.0~3.5mで、栽植本数333~410本/10a植えのトールスピンドル仕立て(図2)への更新が進んでいる。

 トールスピンドル仕立ての高密植により、園地の光線利用率が高まり高品質果実の早期多収(定植後5年間の累積収量15t以上/10a)と均産生産が継続できるので、多額の開園時の投資は早期に回収可能であること、また、作業がマニュアル化しやすく、雇用労力を投入しやすい利点もある。

高密植栽培園地

〇南チロルの最新動向

 2月に米国ミシガン州で開催された第63回国際果樹協会年次大会において、イタリア北部のボローニャ大学の研究者は南チロルのリンゴ栽培の最新動向を次のように報告している3)

 南チロルのリンゴ生産者の個別経営面積は大部分が4.8ha以下である。生産者は労賃、エネルギー及び輸送コストの上昇に直面している。

 傾斜地の多い南チロルでは、四輪駆動の電動高所作業台車が広く普及しているが、生産者はできるだけ機械化を実現しようと、栽培様式と樹形の見直しに努めている。3次元のトールスピンドル仕立てから、機械化に対応しやすい2次元の狭い壁状の樹冠への転換が進んでいる。生産者は特に剪定の機械化に興味を持っている。

 今後南チロルの高密植栽培がどのように進化してゆくのか、世界中のリンゴ産地が注目している。

参考文献
1)菊池卓郎(1986)せん定を科学する.農文協:8-11
2)小池洋男(2017)リンゴの高密植栽培-イタリア・南チロルの多収技術と実際.農文協
3)Milkovich,M.(2020)Mediterranean modern:3atium Good Fruit Grower Vol.71,No.8.

(2020/9/1)

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プロフィール

一木 茂

元青森県りんご試験場長。現在はりんごについて広めるべく、筆を執る。

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