投稿日:2026/10/30
スリランカから空路でインドに入国しました。
本当はフェリーを予約していたのですが、運航前日に突然のキャンセル通知。機器トラブルで復旧の目処が立たないとのことでした。
陸路・海路での国境越えをポリシーとしていたので、ここにきて出鼻を挫かれることに。残念。
南インドの港湾都市コチから入り、マイソール、ハンピ、ムンバイと徐々にインド亜大陸を北上。最終的にはアムリトサルまで行き、パキスタンに陸路で入国する予定でした。
しかし、2025年4月に起きた印パ国境での銃撃戦以降、国境が閉鎖。1年が経過した現在も再開されておらず、陸路での国境越えは断念することになりました。
空路でパキスタンを目指すことにしたものの、インドからパキスタンへの直行便はありません。一度、第三国に渡り、そこからパキスタンを目指すことにします。
どうせなら、まだ行ったことがなく、航空券もリーズナブルな国がいい。そうして見つけたのがオマーンでした。ムンバイからオマーンに飛びます。
オマーンでは首都のマスカット、ニズワ、アル・ハムラなどを訪れました。
今回は、コチからアル・ハムラまでの出来事をフルーツを切り口に振り返ってみたいと思います。
南インドの穏やかな雰囲気を抜け、たどり着いたのがムンバイです。
ムンバイは西インドに位置する、インド最大の商業都市。証券取引所や金融機関が集まり、ボリウッドと呼ばれる映画産業の中心地でもあります。イギリス植民地時代の建造物も残り、観光地としても人気です。
8年ぶりに訪れたムンバイは、すっかり様変わりしていました。成長著しい国の8年は、まるで子どもの成長のようです。新興エリアには高層マンションが立ち並び、メトロの路線網も大幅に拡張。GDPが年々上昇している国の勢いを感じます。そんな発展を続ける大都市で、昔ながらの祭りを見ることができました。
ガネーシャ祭は、象の頭を持つヒンドゥー教の神・ガネーシャの誕生を祝う祭礼です。祭りは複数日にわたって開催され、私が見たのは「ヴィサルジャン(最終儀式)」。祭りの終わりに、太鼓や音楽の行列とともにガネーシャ像を川や海などの水辺に運び、沈めて奉納します。
太鼓の音と熱気に包まれる光景は、どこか青森ねぶた祭り、弘前ねぷた祭りを思わせるものがありました。
一方で、環境面の課題もあります。
像に石膏やプラスチックが使われたり、塗料に鉛やカドミウムなどの有害な重金属が含まれていたりすることで、水質汚染や生態系への悪影響が懸念されています。
インドには、経済成長と並行して取り組むべき社会問題や環境問題が山積しています。GDPを高めるだけでなく、こうした課題の解決にも力を注いでほしいものです。
さて、ここからはフルーツの話に移ります。
インドでよく食べられている果物の一つが、ザクロではないでしょうか。
インドのザクロって、とっても美味しいんですよね。
旬の時期にはあちこちで売られていて、1キロあたり140 INR(≒220円)と安い。可食部が厚い果皮で覆われているため、持ち運びの際に気をつわずに済みます。
そして何より気に入っているのが、食べるときの時間の流れです。
ルビー色の小さな果粒を1粒ずつ口に運ぶ。この単純作業を繰り返していると、自然とぼんやりすることができます。鉄道の車窓から景色を眺めながらザクロを食べる。これが私にとって至福のひとときでした。このインド旅だけで、10キロは食べたと思います。ぼんやりしすぎですね。
ちなみに、インドではQRコード決済がかなり普及しています。
手数料がほぼゼロの決済サービスが普及していることもあり、露店や屋台から大型スーパー、高級店まで、街中の至る所でQRコードを見かけます。ラミネートしたQRコードを首からぶら下げている物乞いまでいました。インドのデジタル決済の普及ぶりには驚かされます。
日本でおなじみのPayPayも、インドのフィンテック企業Paytmとの関係を持ちます。PayPayはソフトバンクグループとヤフーなどによって設立され、Paytmの技術や知見も初期のサービス開発に活用されました。
ただし、インドの銀行口座を持たない旅行者にとっては、現地の決済システムをそのまま使うのは簡単ではありません。結局、私は現金で果物を買うことになります。
次に買ったのは、インド北部のカシミール地方で生産されたりんご。品種は、おそらく「レッドデリシャス」です。
なぜ「おそらく」なのか。
「これは何という品種ですか?」と尋ねると、「これはりんごだ」と返ってきました。
「それは知っています。品種名はなんですか?」と聞き返しても、「りんごという名前だ」という答え。
どうやら、少なくとも私が尋ねた売り手にとっては、品種名は重要でないようです。結局、味と見た目から品種を予想することにしました。
ところが、食べてみると、これが美味しくない。
見た目は悪くないのですが、食感がモソモソしていて、はっきり言って最悪です。津軽弁で表現するなら「芋っぽい」。
旬のりんごだから期待していたのに…。
旬のりんごなのに、なぜこんなに美味しくないのか。
一つの可能性として考えられるのが、収穫後の保存管理です。もちろん、品種や栽培環境、収穫時期などにも味に影響します。ただ、果物は生産技術だけでなく、保存技術や流通技術が整って初めて、消費者の手元に美味しい状態で届くのだと実感しました。改めて、青森のりんご産業すごい。
八百屋やマーケットをジロジロ観察していると、もう一つ気になることがありました。りんごを入れている段ボールが、やけに細長いのです。
2Lのペットボトルが6本入るような形状の箱に、りんごが詰められています。
「なぜこの形なのか?」、何人かに質問してみましたが、返ってくる答えは「知らない」一択。まあ、そうですよね。
緩衝材は新聞紙が1〜2枚程度。りんごは横向きに、ぎゅうぎゅうに詰められていました。
どうりで、売られているりんごに押し跡が多いわけです。
りんご売りを見かけるたびに1〜2個買い、美味しいりんごを探し続けました。しかし、結局見つけることはできず。芋っぽいりんごを食べ続けるという苦行になってしまいました。
少なくとも、今回私が食べ歩いた範囲では、インドで流通しているりんごは美味しくありませんでした。
ところが、りんごジュースは美味しい。
生のりんごには苦戦しましたが、りんごジュースは美味しかったです。
ムンバイの鉄道駅に、りんごジュースを売る店がありました。糖度が低く、味の薄いりんごを使っているのかもしれません。果汁100%なのに、あっさりしていて飲みやすい。しかも200mlで10 INR(≒16円)と安い。最高でした。
なまで食べると美味しくないりんごが、ジュースになると美味しい。果物の美味しさは、素材そのものの品質だけで決まるわけではないのかもしれません。加工によって素材の欠点が目立たなくなり、別の魅力が生まれることもあります。
思いがけず、面白い発見ができました。
続いてはオマーンです。
正直なところ、訪れる前は中東の産油国という程度の知識しかありませんでした。しかし、実際に足を運んでみると、興味深い歴史を持つ国でした。
オマーンはアラビア半島の南東部に位置し、古くからインド洋交易で栄えた海洋国家です。18〜19世紀にはオマーン帝国として東アフリカ沿岸にまで勢力を広げました。
日本との関係では、退位後のスルタン、タイムールが1930年代に来日し、日本人女性と結婚した逸話も知られています。1972年の国交樹立以降も、エネルギーや経済、外交を通じて友好関係を築いてきました。親日国と言えると思います。
スーパーに行ってみると、イメージどおり、農産物には輸入品が目立ちました。
りんごも南アフリカ、フランス、中国、ニュージーランドなど、さまざまな国からやってきています。フルーツ紀行的には、ちょっと残念。いや、かなり残念。
「まあ、砂漠地帯にフルーツなんかないよな…」
店内をとぼとぼ歩いていると、ついに発見しました。国産フルーツ、デーツです。
デーツはナツメヤシの果実で、中東や北アフリカで古くから食べられてきました。糖分が多く、濃厚な甘みとねっとりとした食感が特徴です。乾燥したものは干し柿に近い味わいがあります。
一般的には乾燥した状態で売られていますが、さすが産地。生のデーツもありました。
食べてみると、こちらは柿に近い味。厳密に言うと、渋抜きをした渋柿の味わい。若干の渋みはあるものの、やめられない止まらない美味しさでした。
乾燥地帯で獲れる貴重な果物。その土地の環境に適応した農産物の魅力を感じます。
ちなみに、乾燥デーツは買いませんでした。
というのも、買わなくても食べられるからです。
ホテルの室内や銀行、郵便局など、さまざまな施設の受付には、デーツが置かれていることが多いのです。
訪問者をもてなすための「ウェルカムデーツ」。あちこちで食べる機会があるので、わざわざ購入する必要がありません。オマーン最高!
実は私、これまでデーツを食わず嫌いしていました。
黒光りした見た目と大きさが、どうしてもゴキブリに見えてしまい、気持ち悪いと思っていたのです。しかし、いろいろなところで食べてみると、見た目に反して美味しい。
美味しいとわかった途端、ゴキブリには見えなくなるものです。人間の、いや、私の認知って単純ですね(笑)。
デーツにすっかりハマった私は、生産地を見てみたくなりました。そこで訪れたのが、アル・ハムラ村です。
アル・ハムラはハジャル山地の麓に位置する歴史ある村。伝統的な泥レンガの家並みと、山の水を利用した灌漑農業が特徴です。ナツメヤシも栽培され、デーツは古くから地域の食生活を支えてきました。
泥レンガの街と岩山。その間を埋めるように広がるナツメヤシの農園。素敵な景観でした。
農園の中に入ると、日陰がありながら、ほどよい木漏れ日が差し込んでいます。
そこに加わるのが、「ファラジ」と呼ばれる伝統的な灌漑システムを流れる水の音。地下水などを利用して農地に水を届ける仕組みです。
乾燥した土地に緑をもたらす水路と、ナツメヤシの木々。非常に心地よい空間でした。
ただ、そこで育つデーツが、どのような苦労を経て消費者に届くのか。調べてみると、生産現場には想像以上の厳しさがありました。
ナツメヤシは、木の上部にまとまった数の果実をつけます。実が大きく膨らみ、緑色から黄色や赤色に色づき始めると、自然落下による収穫ロスや鳥などによる食害を防ぐため、房にネットをかけることがあります。そして、樹上で熟したら収穫します。
これがなかなか過酷な作業です。
第一に、樹高が非常に高いこと。
ナツメヤシは非常に高く育つため、収穫には高所での作業が伴います。一歩間違えれば、墜落事故につながる危険があります。葉の付け根にある硬く鋭い巨大なトゲにも注意が必要です。
第二に、木を傷つけられないこと。
ナツメヤシの成長点を損傷すると、木の生育に深刻な影響を及ぼす可能性があります。高所で木を傷つけないよう、慎重に作業しなければなりません。
第三に、何度も収穫する必要があること。
りんごでいう「すぐりもぎ」のように、同じ木や房の中でも、果実によって熟すタイミングは異なります。一度にすべてを収穫することは難しく、何週間にもわたって同じ木に登り直す必要があります。
第四に、暑さと虫の問題。
収穫期は地域や品種によって異なりますが、夏から秋にかけて高温になる地域では、厳しい暑さの中で作業しなければなりません。糖分の多い果実にはハエなどの虫も集まり、作業環境をさらに厳しいものにします。
こうした労働環境や収益面の問題は、農業の担い手不足とも無関係ではないでしょう。若い世代の就農が難しくなれば、農家の高齢化や後継者不足も深刻化していきます。
今回の旅では、インドでザクロやりんごを食べ、オマーンではデーツに出会いました。
ザクロを食べながら鉄道の車窓を眺める時間。美味しくないりんごを食べ続けながら考えた、保存や流通の技術。そして、見た目だけで敬遠していたデーツの美味しさと、その生産現場の厳しさ。果物を食べ歩くだけでも、さまざまな発見があります。
旅先で果物を食べる。
ただそれだけのことが、土地の歴史や農業、流通、そしてそこで働く人々について考えるきっかけになる。そんなことを感じた、インドからオマーンへのフルーツ紀行でした。
1997年8月1日、神奈川県横浜市生まれ。
小学校の教員として働くなかで、地域おこし協力隊という仕事と美味しいリンゴにめぐりあい弘前にI ターン移住。
さまざまな品種を食べたり、副業として生産作業に従事したり、シードルアンバサダーを取得したりしてリンゴの魅力を多面的に味わっています。
「りんご大学」では、溢れんばかりのリンゴへの愛と好奇心を活かしてリンゴの情報を発信中。現在はキャリアブレイクとして世界漫遊の旅に出ているので、リンゴを主とした世界のフルーツ事情も発信しています。
【資格・免許など】
教員免許[小学校、中学校(社会)、高等学校(公民)(地理歴史)]、社会教育士、自然体験活動指導者、国内旅行業務取扱管理者、全国地域リーダ養成塾修了(37期)、世界遺産検定1級
