りんごと料理

老舗果物専門店などに行くと、高価な木箱に入った宝石とみまがう美しさの果物が売られています。ガラスケースに鎮座した果物たちの輝きは、宝石に負けていません。日本の果物は、こだわりのものから、スーパーで手軽に買えるものまで、生産者の方々のたゆまぬ努力で作られていることは言うまでもありませんが、いずれも嗜好品的傾向が強く、デザートとして食べられることがほとんどです。

一日の果物消費量の国際比較というデータがあります。最も消費が多いのはオランダで444g、2位はオーストリアの400g、3位イタリア386g、4位ブラジル382g・・・日本はというと、32位で140gでした(国連食糧農業機関「FAOSTAT」:2011年 注:ワインを除き、スイカ、メロン、イチゴを含む。皮、芯を含む)。新鮮な果実からは、健康に必要な食物繊維やビタミン、ミネラルを摂取することができるため、日本では、1人当たり1日200g(可食部)以上の果物摂取を推進する「毎日くだもの200g運動」(毎日くだもの200グラム推進全国協議会)が進められています。その目安は、みかんなら2個、りんごや梨なら1個程度。少し気をつければ十分食べられる量ではないかと思われますが、実現するのは簡単ではないということです。

そもそも諸外国では、果物は野菜と区別なく食べられています。野菜と一緒で、果物も調理して食卓に並べることで食べる機会が増えるのです。ただ、そのまま食べておいしいものをわざわざ加熱したらもったいない、そんな思いもあります。そこは臨機応変に、買ってみてちょっといまいちと感じたものや、旬のたくさん出回る時期のものなどを利用してみてはいかがでしょう。

アップルパイや焼きりんご、実は私たちは加熱したりんごにはとてもなじみがあります。りんごは加熱することで、生食に勝る食味と芳香が楽しめ、キッチンに立っている自分自身がその香りに癒されます。また、甘さ控え目で酸味が強いりんごほど加熱したときの美味しさが際立ち、加熱することで増える栄養価(ペクチンなど)もあるのです。今回は調理ということで、りんごとみりんで作る常備菜ならぬ調味料、『ちょうみりんご』を紹介したいと思います。

『ちょうみりんご』の材料はりんごとみりんのみです。(目安:りんご1個に対してみりん大さじ4~5)

◎りんごとみりんで作る調味料『ちょうみりんご』
①りんごをよく洗い、芯を除いて8等分のくし切りにする。
②耐熱皿に並べ、ふんわりラップをかけ、電子レンジ(600W)で3~4分加熱し、そのまま粗熱をとる。(指で押してつぶれるくらいが加熱の目安)
③ナイフなどで皮を除く。※皮に栄養とうまみがあるので、ひと手間かけて皮ギリギリまでそぎ落とす。
④フォークの背などでりんごを潰し、みりんをかけてラップをかけずに電子レンジ(600W)で2~3分加熱する。粗熱が取れたら清潔な容器に入れて冷蔵庫で保存。(保存期間は2週間程度)

『ちょうみりんご』は、ドレッシングはもとより、生姜焼き、角煮、みそ炒め、照り焼きなど、日本特有の甘辛い料理に、砂糖やみりんの代わりに使用するのがおすすめです。『ちょうみりんご』+バルサミコ酢を合わせたソースは、肉や魚のソテーにかけると絶品です!『ちょうみりんご』を使うことで、りんごの自然の酸味、砂糖にはない優しい甘み、うま味や風味などが料理にプラスされ、奥深い仕上がりになります。調味料の“調”と調味料を超える“超”をかけ合わせ、付けた名前です。


ちなみに、イギリスでは生食するりんごを「デザートアップル」、調理するりんごを「クッキングアップル」と区別しています。りんごを調理することが当たり前だからこその区別なのです。クッキングアップルは、もちろん生食向きではないので、そのまま食べると酸っぱかったり、かたかったり、渋かったりしますが、加熱することで、何倍にも美味しくなります。なかでもイギリス生まれのりんご「ブラムリーアップル」という品種は、加熱するだけでとろりと溶けだすので、つぶす手間もありません。我が家では毎年取り寄せて、様々な料理に活用しています。


果物を料理に。まだまだ抵抗のある方もいらっしゃることと思いますが、まずは作り置きの調味料から始めてみませんか。

2021/10/15

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