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vol.14 遺産を訪ねる散歩道

引っ越しをしました。6年ぶりです。

これまで住んでいたところが、単身者や夫婦向けだったので、子どもが大きくなってきたのを機に、家族で住める広さの社宅へ移らせてもらいました。

スーパーやコンビニも近くて、最寄り駅にも道一本で行ける利便性抜群の住宅地から、田んぼと畑とりんご園に囲まれた、のどかな集落の一端へ。車で5分。学区は変わらないのに、川のせせらぎや鳥の声、植物の香りがぐっと近くに感じられます。

まだ、来たばかりですが、地区のお知らせが回覧板やチラシではなく、放送で流れてくるのに驚きました。毎度聞き取れずに困っているのですが、ご近所の方々は「なんとなくわかればいい」というようなことをおっしゃいます。

それでいながら、運動会や草野球は滞りなく行われますし、廃品回収や農家のお手伝いにもきちんと参加されているから不思議です。

隣家が親せきだったり、幼なじみだったり、同級生だったり、同僚だったり……。どの家も何かしらのつながりがあって、情報共有に困ることはないそうです。これも、慣れなのでしょうか。戸惑いながらも、楽しいご近所付き合いがスタートしました。

お隣に住んでいる大家さんと自宅の間からは、岩木山が臨めます。朝の澄み切った青空にそびえる姿も目覚ましいのですが、夕焼けのころは、稲穂とともに大地全体が真っ赤に燃え、津軽平野の雄大さを体感できます。

そんな景色を眺めるうちに、「ことし、まだ山に行ってないな」と、気が付きました。昨年は、初めて子どもを連れて、岩木山登山や八甲田の田茂萢(たもやち)湿原のトレッキングに挑戦しました。充実した時間に「来年も絶対行こう」と決めていたのに、今シーズンは引っ越しのことで頭がいっぱいで、危うく機会を逃すところでした。

区切り線

いざ、自然散策へ。

行き先は、夫の提案で白神山地に決定です。

白神山地は、青森県の南西部と秋田県の北西部にまたがる山岳地帯のことです。人の影響を受けていない天然のブナ林が世界最大規模に分布しているという理由で、1993(平成5)年に日本初の世界遺産登録を受けました。

登録されたのは、広大な山林の中でも、人為的な整備がされていない中心地域です。中心地域は、さらに中央部の核心地域と周辺の緩衝地域に分かれます。

眺望の良い名所が少なかったことや、ブナが建材に不向きで伐採を逃れたことにより、人の手が入らず、結果原生林が守られたとも言われています。人間にとって不都合だったことが、森には救いになったのですね。

白神山地散策の拠点「アクアグリーンビレッジANMON」
白神山地散策の拠点「アクアグリーンビレッジANMON」。
観光案内所やキャンプ場があります

弘前市内から西目屋村へ車で約40分。緩衝地域内にある名瀑「暗門の滝」を目指す渓谷ルートを巡ってきました。総合案内所「アクアグリーンビレッジANMON」を起点に、岩木川の支流・暗門川の渓畔を上る、人気の高いコースです。歩道が続く「第二の滝」まで約1時間歩きます。

晴天が続いていたこともあり、川の流れも穏やかで心地良かったです。「水源の里」とうたうだけあって、水が非常にきれいです。濁りがなく、どこまでも透明で、ずっと底まで見通すことができます。シュノーケリングが好きな夫と息子は、始終「潜りたいね!」「飛び込みたいね!」と、はしゃいでいました。

高倉森方面の森林が日に照らされ、錦のように輝いています。次第に背の高いブナ林に包まれ、川幅が狭くなっていき、大きな岩がごろごろと現れてくると、前方からごうごうと音が聞こえます。景勝地、落差26mの「第三の滝」です。さらに10分ほど進むと、同37mの「第二の滝」が現れます。一般の散策道はここが終点です。

白神山地の山道

迫力満点の「第三の滝」

白神山地を散策するのは、私は二度目です。前回は、暗門の滝に加えて、未舗装の県道28号「白神ライン」を進み、深浦まで抜けました。途中、深い森の中で見たブナ林は一生忘れることはないでしょう。霧の中に、想像をはるかに超えた巨木がいくつもそそり立ち、今にも動き出しそうな錯覚に陥ったのを覚えています。自然界に精霊といったものが本当に存在するのなら、ここにいるのだと痛感した、それはそれは幻想的な光景でした。

当時は霧雨が降っていましたが、今回はコンディションにも恵まれ、最高の散歩となりました。落葉の違いを調べたり、初めて見る植物を観察したり、川魚を探したり、湧き水を口に含んでみたり、滝の生まれる場所をのぞき込んだり、水しぶきを全身に浴びてみたり……。家族とともにじっくり、ゆっくり歩いてみることで、前に来たときよりもいっそう自然を楽しめた気がします。次回は、水遊びができる夏に訪れたいです。

旅のお土産に
駐車場に戻ると、売店にりんごがたくさん並んでいました。旅のお土産におひとついかが

区切り線

紅葉が見ごろを迎えると、主役のりんごがぞくぞく登場します。白神山地から帰ってきてすぐに、新種のりんごをいただきました。「千雪(ちゆき)」です。

千雪は「金星」と「マヘ7」を掛け合わせてできた品種で、正式には「あおり27」と言います。千雪という名前は、青森県がつけた商標名です。表皮にある果点がはっきり浮き出ているのが特徴で、雪が舞う様子に似ていることから名づけられたようです。「彩香」が出たときに、女の子の名前みたいだなと思ったのですが、千雪もかわいらしいネーミングですね。

千雪
千雪は丸形で、果点が目立つ「マヘ7」の個性を引き継いでいます。
切ると中心部に赤みがさしていました

変色しにくい特性があり、加工用として出たようですが、食味が良いので生でもいけますよ、と八百屋さんが教えてくれました。色が変わらないということは、甘みが少ないのかなと、実はあまり期待せずに食べてみたのですが、思った以上に美味です。早採れの「ふじ」より、むしろしっかりとした甘みがありながら、香りはスッキリ軽快。かための果肉の、程よい歯ごたえがくせになります。

青森県でしか栽培されていないので、県外からの観光客にもおすすめしたい一品です。秋の中ごろから旬ですが、冷蔵保存も長くありませんので、年内にぜひ味わっていただきたいです。

旬のりんご

道の駅にある「アップルパイ」
紅葉の絶景スポットが多い青森県には、秋も桜の季節と同じくらい観光客がやってきます。ドライブ途中に立ち寄っていただきたいのが道の駅。この日「サンフェスタいしかわ」では人気の品種やアップルパイが並んでいました

※白神山地は、天候により車道・登山道・散策道が通行止めになる場合があります。必ず事前にご確認の上ご訪問ください。その際は、管理者の指示に従い、安全を最優先に自然散策をお楽しみください。また、白神ラインは危険な個所が多く、電波も届かないため、通行はおすすめいたしません。

白神山地ビジターセンター https://www.shirakami-visitor.jp

白神公社(アクアグリーンビレッジANMON)  http://www.kumagera.net

2018/11/24

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プロフィール

上原 香織

盛岡市生まれ。土手町「鮨たむら」女将。出版社、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動。結婚、夫の転勤を機に弘前市に転居する。現在は夫婦ですし店を切り盛りしながら、青森のおいしいものを探索中。趣味は観光と登山。一児の母。
「鮨たむら」の店舗情報http://www.seijiro.jp/sushitamura/index.html

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