映画ライター・月永理絵の「りんごと映画、時々恋」
メインイメージ

食べ物としてだけではなく、たくさんの側面を持つ果実。物語の中に出てくるそれは、脇役でありながら観る人に強烈な印象を与える。スクリーンの中でもその存在感は変わらず、観る人を惹きつけるーーー。ここでは、映画ライターの月永理絵さんに、数ある映画の中からスポットを当てていただきます。是非、映画と共に観賞してみてください。

Vol.5 白雪姫と毒りんご


『白雪姫と鏡の女王』より
©2011 Relativity Media, LLC. All Rights Reserved.©2012 Snow White Productions, LLC All Rights Reserved.

■白雪姫の物語

りんごの出てくる映画についてコラムを書いています、と言うと、2回に1回は「映画の中のりんご? となるとやっぱりあの映画ですか?」と聞かれる。真っ赤なりんごに齧りつく少女。そう、誰もがよく知る『白雪姫』だ。グリム童話が原作だが、一般的には、ディズニーのアニメ映画のイメージが有名だ。意地悪な継母に命を狙われる白雪姫が、謀略とは知らずに毒りんごを口にしてしまう。その毒に倒れ仮死状態となる彼女だが、王子様との出会いによって無事に命を救われる。そういえば先日このコラムで紹介した『バッド・ティーチャー』にも毒を塗ったりんごが登場するが、これも『白雪姫』の引用だろう。

実は、グリム童話の『白雪姫』を原作にした映画は、ディズニーのアニメ以外に何本もつくられている。まずは、1997年にテレビ映画として製作された『グリム・ブラザーズ/スノーホワイト』(マイケル・コーン監督)。2001年には、こちらもテレビ映画として『スノーホワイト/白雪姫』(キャロライン・トンプソン監督)が製作。2012年、アクション映画としてつくられた『スノーホワイト』(ルパート・サンダース監督)が公開、2016年には続編として『スノーホワイト/氷の王国』(セドリック・ニコラス=トロイアン監督)もつくられたが、続編に白雪姫は登場しない。同じく2012年にはまた毛色の違う『白雪姫と鏡の女王』(ターセム・シン・ダンドワール監督)がつくられている。数年前には、ディズニーが、白雪姫の妹を主人公にした実写映画(「Rose Red」)を製作するというニュースが流れたが、その後の製作状況はよくわからない。改めてこの有名な物語を紹介するのはどうも気恥ずかしいけれど、せっかくなので、現代風にアレンジされた『白雪姫』のなかで毒りんごがどのように登場するのか、2012年製作の2本の映画を見比べてみたい。

■思い出のアイテムとして登場する『スノーホワイト』の毒りんご

白雪姫は、雪のように白い肌、漆黒の髪の毛、血のように赤い頬と唇を持った少女として描写される。赤々と光る見事な唇でこれまた真っ赤なりんごに齧りつく。その画自体が、どこか官能的で罪作りな印象をもたらす。

グリム童話やアニメ版では、老婆に化けた継母(もしくは実母)から美味しそうな真っ赤なりんごを手渡され、それを食べたことで白雪姫は一度死んでしまう。グリム童話では、初版からのバージョンの違いによって物語や設定が少しずつ異なるようだが、アニメでは、最初はりんごを食べるのをためらっていた白雪姫が、老婆が自ら半分を齧ってみせたのを見て安心し、もう半分を口にしてしまう。だがこれこそ継母の作戦で、りんごにはちょうど半分に毒が塗ってあった。そうして毒の部分を齧った白雪姫は倒れこむ。正直なところ、何度も継母から命を狙われているくせに怪しい老婆に渡されたりんごを素直に食べてしまう白雪姫は、現代から見ると少し間抜けにも見える。そのせいか、『スノーホワイト』では、この毒りんごをめぐるエピソードに原作から多少の工夫をほどこしている。

『スノーホワイト』より
©2012 Universal Studios.ALL RIGHTS RESERVED

クリステン・スチュワートが白雪姫/スノーホワイトを、美にとりつかれた継母ラヴェンナをシャーリーズ・セロンが演じた『スノーホワイト』は、悪の女王に支配された王国で、救世主である若き姫が民を率いて女王を倒すアクション映画。ディズニー・アニメとは異なり、白雪姫は、王子に助けられる姫ではなく、自ら武器を持って戦う救世主。その姿はあたかもジャンヌ・ダルクのよう。全体的に暗く陰鬱な映像で、アメリカの人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』にもどこか似た世界観だ。

『スノーホワイト』より
©2012 Universal Studios.ALL RIGHTS RESERVED

ここでは、シャーリーズ・セロン演じるラヴェンナ女王の存在感が特に強い。妻を亡くして悲しみに沈む王は、ある日謎の美女ラヴェンナと出会い、その美しさに夢中になる。だがラヴェンナは結婚初夜に王を殺し、王の娘スノーホワイトを塔に幽閉すると、弟と共に王国を支配してしまう。それから10年近くが経ち、王国はすっかり荒れ果てている。女王となったラヴェンナは、永遠に美しくあることこそ絶対の力を得る唯一の方法だと信じていて、若く美しい女たちの生き血を吸うことで美しさと若さを保っている。やがてスノーホワイトが成長し、自分の地位を脅かされたラヴェンナは彼女を抹殺しようとするが、危機一髪で森に逃げ込んだスノーホワイトは森に住む7人の小人たちに救われて……と物語はほぼ原作の通りに進んでいく。違うのは、救世主となる王子が登場しないこと。代わりに、幼馴染のウィリアムと森の猟師エリックが登場する。彼らは恋のお相手というよりも、スノーホワイトを助け共に戦う仲間として存在する。

りんごは、スノーホワイトにとって大事な思い出をもつアイテムとして登場する。まだ実母が生きていた頃、幼い彼女は、いつも幼馴染のウィリアムとりんごの木に登って遊んでいた。木登りのうまいウィリアムはりんごをもぎ取ると「食べる?」と優しく差し出すが、スノーホワイトが手を差し伸べた瞬間さっと自分の口に入れて彼女を悔しがらせる。幼い子たちの邪気のない戯れだ。その後、塔での幽閉生活から抜け出したスノーホワイトは、成長したウィリアムと再会し懐かしい思い出を語り合う。ふとウィリアムがりんごを差し出すと「また昔みたいに私を騙すつもり?」と笑いながら彼女はそれに齧り付く。もちろんこれは毒りんご。ウィリアムに化けた女王の作戦だったのだ。毒によって命を落としたスノーホワイトはもちろん見事に復活するのだが、どんなふうによみがえるのかは映画を見てのお楽しみ。

■なかなか登場しない『白雪姫と鏡の女王』の毒りんご

一方『白雪姫と鏡の女王』は、『スノーホワイト』と同年に公開されたものの、その趣はずいぶんと違う。白雪姫役はリリー・コリンズ、女王役はジュリア・ロバーツ。本作は、石岡瑛子が最後に衣装を手がけた映画でもあり、全編、工夫の凝らした衣装や美術に取り囲まれている。全体的にコメディ色の強い作品で、特に鏡の女王ジュリア・ロバーツの傍若無人さは見ていて実に楽しい。王の不在中に贅沢の限りをつくしては国の財政を圧迫し、目障りな義理の娘を城に閉じ込める横暴な継母であるが、ただただ豪奢で美しいものを愛する彼女は子どものように無邪気でどうにも憎めない。ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』のように、臣下を使って実物大チェスをしてみせたりもする。

『白雪姫と鏡の女王』より
©2011 Relativity Media, LLC. All Rights Reserved.©2012 Snow White Productions, LLC All Rights Reserved.

白雪姫は、女王の命令によって城に閉じ込められている。友達は、窓からやってくる小鳥だけ。テーブルには、ナイフできれいにカットされたりんごがぽつんと載っている。小鳥にりんごの種を食べさせるためだ。18歳の誕生日、これ以上はがまんできないとこっそりと城を抜け出した白雪姫は、森で小人の強盗集団に襲われた王子を助けてあげる。かすかな恋の気配。だが次に向かった村で、横暴な女王のせいで民が重税と貧困に苦しんでいることを知ると、王子の助けを借りて国を救おうと決意する。その決意を見抜かれ女王の怒りを買った姫は、命を狙われるも命からがら森へ逃げ込み、奇妙な小人たちに鍛え上げられながら、女王への反撃のチャンスをうかがう。彼女の恋の相手、アーミー・ハマー演じる王子はたしかにかっこいいが、どこか横柄で子どもっぽい。そんな王子は、女王の魔法にかけられ子犬のような男にさせられてしまう。魔法にかかった王子をキスの力で救うのは白雪姫だ。そうして「王子に助けられる姫を救うなんておとぎ話は私が変えてみせる」と宣言する。

『白雪姫と鏡の女王』より
©2011 Relativity Media, LLC. All Rights Reserved.©2012 Snow White Productions, LLC All Rights Reserved.

この映画では、毒りんごに齧りつき、その毒に倒れる白雪姫は登場しない。最後の最後、真っ赤なりんごをゆっくりと口に運ぶ姫は描かれるが、口にしようとした瞬間、彼女はふと何かに気づき、懐から父の形見であるナイフを取り出すとりんごをきれいにカットしてみせる。その様子は、冒頭の小鳥のためにりんごを切ってあげるシーンと見事に対応する。丸々としたりんごに齧りつくのではなく、見事にカットされたりんごを口にするのは果たして誰なのか。

■ディズニー映画『魔法にかけられて』

現代版『白雪姫』は、それぞれのやりかたで戦うお姫様の姿を新たにつくりだした。最近、『美女と野獣』『ダンボ』『アラジン』など、ディズニー・アニメの実写化がよく行われているが、ディズニーが改めて実写版『白雪姫』をつくったら、姫はどんな女性として描かれるのだろう。何より毒りんごのくだりがどのように描かれるのか、興味がわく。少なくとも、現代の白雪姫はそうそう迂闊に毒りんごに噛りつかないように思うのだけれど。

最後に、『白雪姫』ではないけれど、ディズニーが製作したある映画を紹介したい。2007年に公開された『魔法にかけられて』。アニメーションと実写を取り混ぜたファンタジー映画だが、ディズニーがこれまでつくってきたアニメ映画に対する自己批評的視線も加えられていて、大人も存分に楽しめる映画となっている。物語はまずアニメーションパートから始まる。いかにもディズニーらしい美しいお姫様ジゼルがハンサムな王子様と婚約する。だが姫に嫉妬した王子の継母の魔法によって、ジゼルはおとぎの国から追放される。ここで突然実写に切り替わる。ジゼルが放り出されたのはなんと現代のニューヨーク。せわしなく、人に溢れた、小汚い大都会で、ドレスを着たおとぎの国のお姫様は呆然と立ちすくむ。世間知らずのジゼルは、ニューヨークに暮らすシングルファザーとその娘に偶然助けられ、3人の同居生活が始まる。こうして現代社会に舞い降りたお姫様が大騒動を巻き起こすドタバタ喜劇が幕を開けるわけだが、随所に、ディズニー映画へのパロディが挿入される。街中で突然歌い出したり、小動物の力を借りて掃除や裁縫をしあげるジゼルの姿は、実写で見ると喜劇そのもの。それでも最後にはしっかりとラブストーリーに仕上げる様はさすがディズニー。そしてここでもやはりお姫様を狙う毒りんごが登場し、倒れた彼女を救う王子様のキスも描かれる。だがそのお相手は本当に王子様なのか。そもそもお姫様の運命の相手は王子様で間違いないのか。いや、王子様にぴったりのお相手だってかわいいお姫様とはかぎらない。

おとぎ話は時代と共にいくらでも変わっていく。真っ赤な毒りんごをめぐる戦いは、真っ赤な唇をしたかわいいお姫様と邪悪な魔女によるものとはかぎらない。お姫様がどんどん強くなり、王子様が姿を消せば、毒りんごの立ち位置もまた変わっていく。毒りんごをテーマに、これからも新しい『白雪姫』の誕生を見守りたい。


『スノーホワイト』
価格:1,429円+税(DVD) 1,886円+税(Blu-ray)
DVD&Blu-ray好評発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
©2012 Universal Studios.ALL RIGHTS RESERVED.
※2019 年 06 月の情報です。
『白雪姫と鏡の女王 コレクターズ・エディション』
価格:3,800円+税(DVD) 4,700円+税(Blu-ray)
DVD&Blu-ray好評発売中
発売元:ギャガ 販売元:ハピネット
©2011 Relativity Media, LLC. All Rights Reserved.©2012 Snow White Productions, LLC All Rights Reserved.

2019/6/22

バックナンバー


プロフィール

月永理絵

エディター&ライター。『映画酒場』『映画横丁』などの雑誌や、書籍の編集をしながら、ライターとしても活躍している。大学卒業後に小さな出版社で働く傍ら、映画好きが高じて映画評の執筆やパンフの編集などをするように。やがて会社を退職し、現在はフリーランスで活動中。青森市出身で、現在は東京都在住。

映画酒場編集室  http://eigasakaba.net/

新着情報

〈新ブログ一覧〉
〈旧ブログ一覧〉

海外のウェブサイト

繁体中文簡体中文English

りんご大学からのおすすめ

Page Top