音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.2 ミクスチャーでもっと美味しく!

ひところ、日本人と外国人の両親の間に生まれた子どもを「ハーフ」と呼ぶのが良いか「ミックス」と呼ぶのが良いかということが話題になったことがあります。これについての答えは全然出ていなくて、そのお子さんたち本人の間でもどう呼ばれたいのか意見が分かれています。昔に日本で使われていたはずの「混血」という言葉からハーフに移る時も、けっこうディスカッションの的になったと思います。でもこちらは答えが出たようですね。「混血」の中にある「混ぜる」「混じる」というニュアンスがネガティヴに響いたのか、ハーフという呼び方が一般的になって今があるわけです。単純にカタカナ語がカッコいいという理由もあったかも知れません。

ミクスチャー=カラフル
いろんな色の良さが混ざって高めあうのが、ミクスチャー

カタカナがカッコいいと書きました。カタカナと言えば、日本語って漢字、ひらがな、カタカナの3つのパーツがミックスされた、世界でも珍しい言語です。大体はアルファベットだったり、ロシアやブルガリア、モンゴルなどで使われているキリル文字だったり、ギリシャ文字だったり、とにかく一種類の文字だけしかありません。上で書いたように「混ぜる」ということにあまりいいイメージを持っていないっぽい日本人ですが、そもそも日本語はものすごくいろんな言葉を寄せ集めて作った、複雑で多彩な表現ができるミックス言語なんです。

例えば、上でも「議論」をディスカッションと書いたり、「差別的」とも書けるところをネガティヴと書いたりしています。このコラムではちょっとカッコいい、オシャレなムードを出したいと思っているからです。成功しているかどうかはさておき、カタカナという選択肢がある日本語ならではのやり方ですよね。

最近はオシャレでソフトな音楽ボッサ・ノーヴァ(ボサノヴァ)のイメージが強いブラジルですが、私の親世代がこの国についてよく言うのは「混血だから美人が多い」ということです。私が子どもの頃の70~80年代前半は、テレビなどでブラジルの風景が映ったりするたびにそういう言葉が聞こえてきました。どうもその頃のインターナショナルなミスコンで、ブラジルやミックスの多い国の出場者が優勝しまくっていたようなんですね。ミックスするということに対する良いイメージ、つまり、それぞれの良いところだけが残る「いいとこどり」の印象がその頃の日本で生まれたのは確かでしょう。

良いものを新しく生み出すためにミックスするというやり方は、農業の世界では古くから盛んにおこなわれています。例えばリンゴでは、赤くて赤ん坊の頭ほどもある、その名も「世界一」はデリシャスとゴールデンデリシャスを交配して出来た品種です。私の生まれた1974年に発表された品種で、今は中国人にものすごく人気なのだそうです。これがたくさんぶら下がっているリンゴ畑の風景はまるでファンタジーの世界です。ドリーミーなネーミングの黄色い「星の金貨」はふじと青り3号のミックス。こちらは2004年発表の比較的新しめのミックス品種ですね。このように、スーパーなどで見かける美味しそうなリンゴたちの中には、このようにミックスの結果生まれてきた品種が意外に多いのです。

世界一
世界一
種子親「デリシャス」 × 花粉親「ゴールデンデリシャス」

とは言え農業の品種改良では、リンゴでも何でも新しいだけではダメで、美味しくないと意味がありません。リンゴの交配で商品になるような美味しく新しい魅力を持ったニューカマーを作り出すには、研究機関の専門技術と知識が必要で、気の遠くなるほど長い試験期間と針の穴を通すようなレアな成功率をくぐり抜けていかないとダメなのだそうです。そんな努力の結果生まれたものが、私たちの日常にポンと置いて売られているなんて、本当にすごいことですよね。

でも、こういう時はフランスの作曲家モーリス・ラヴェルの名言を思い出しましょう。曰く「すべては奇跡によってなされたと見えなければならない」。そう、例え地道な努力の積み重ねによって生まれたものでも、それがあなたの目の前にあたかも当たり前のようにあるのは、奇跡以外のなにものでもありません。

現代の音楽シーンでは複数のジャンルをミックスすることを「ミクスチャー」と言います。古くはフュージョンとかクロスオーヴァーとかいう呼び方もありましたが、どちらかと言うとジャズっぽい音楽限定でした。ここ数年のミクスチャー音楽の充実ぶりは驚くほどです。特に、ネオソウルやヒップホップ、クラブミュージックなどをベースにポストロックやジャスなどのセンスをぶち込んだスリリングでダンサブルなサウンドで巷の話題をさらっているオーストラリアのバンド、Hiatus Kaiyote ハイエイタス・カイヨーテは音楽好きな若者にはマストでしょう。ひところのシンディ・ローパーみたいなかっ飛んだルックスとパフォーマンスが持ち味の女性リーダー、ギタリスト兼ヴォーカリストのネイ・パームの魅力も時代を引っ張るオーラが漂っています。彼女らの、複雑なのに踊れてしまうグルーヴ作りのメソッドには、評論家や演奏家も熱い視線を注いでいます。2ndアルバム『チューズ・ユア・ウエポン』を引っ提げ、9月には横浜で行われたBlue Note Jazz Festivalで初来日しました。最近のミクスチャー音楽がこれまでのものと違う一番のポイントは「売れる」ということです。彼女らもiTunesチャートで1位を獲得しています。

チューズ・ユア・ウェポン
タイトルチューズ・ユア・ウェポン
アーティスト名 ハイエイタス・カイヨーテ
価 格¥2,400+税
品 番SICP-4532
発売元ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

最近のミクスチャー音楽が売れるようになった、と書きました。これって、リンゴの新品種が生まれるプロセスに例えられるのではないでしょうか。ミクスチャーで使われるポップスやジャズ、ソウルなどのジャンルは長い音楽の歴史の中ではまだまだひよっ子。長いものでも生まれてから100年とちょっとしか経っていません。ミクスチャーで美味しいサウンドが生まれ始めている現代は、リンゴの品種改良で言う「気の遠くなるほど長い試験期間」がようやく終わった時代なのです。大人気のBabymetal ベビーメタルもアイドルとへヴィメタルの文化がしっかり熟したあとだからこそ生まれた新品種。ジャズミュージシャンなのにR&B部門でグラミー賞を獲得したアメリカのピアニスト、ロバート・グラスパーも、そういう意味で現代を代表するアーティストだと思います。

音楽でも農業でも試行錯誤はこれからも続き、新しく美味しいものが次々と生み出されていくことでしょう。そこに至るまでの失敗や努力は想像を絶するもので、自分がそれを実際にやる側に立たない限りきっと永遠に実感できないでしょうね。でもその分、私たちは「奇跡によってなされた」美味を体全体で味わうことができるのです。ミクスチャーは、これからの時代をもっと美味しく彩ってくれます。

2015/10/26

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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