音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.21 リンゴ専門図書館をつくりたい

お金持ちになったら何がしたいかっていう質問、盛り上がりますよね。みなさんは何を思い浮かべますか? 贅沢な旅行がしたいとか、毎日おいしいものが食べたいとか、親孝行したいとか、新居を建てたいとか。もっと堅実に、貯金がしたいとか投資したいとか言う人もいらっしゃるでしょう。多くの場合「自分のため」に何かしたいという感じですよね。もちろん私もそういうことを、たくさん夢想します。でも、こういうことも考えるんです。図書館をつくりたい、と。

今はフリーのライターですが、私の前職は公共図書館の図書館員でした。ほとんどの人が「無料で本が借りられるところ」とか「気軽に入って、毎日の時間つぶしができるところ」というイメージを図書館に対して持っていると思います。でも実は、図書館の役割ってもともと「情報と人をつなげる」なんですね。で、そのお手伝いをするのが図書館員なんです。

調べものを意味する「レファレンス」などがそうしたお手伝いにあたる仕事の一つです。今は人件費削減や機械化が進んで自動貸出機を導入する図書館も増えてきています。便利なんだからもう無人化して24時間開館にすれば、と思う人も多いかもですが、もし一人も図書館員がいない施設があったとしたら、それは実質的には図書館ではないんですね。まさに無料貸本屋なんです。

能代市立能代図書館
能代市立能代図書館

ところでみなさん、なぜ図書館が無料で利用できるのかご存知でしょうか? それは図書館法第十七条の「公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない。」があるからです。このすばらしい法律があるからこそ、私たちはお金を払うことなく気軽に街の図書館を使えるんですね。でもこれは逆に言うと「売り上げ」は全く見込めないということでもあるんです。つまり、運営する側から言えば、お金が出ていくばかりの金食い虫で、頭痛の種というわけです。

だからこそ、私はお金持ちになったら図書館をつくりたい。もちろん日本にはすでに私設の図書館もたくさんあります。それらはいわゆる「公立図書館」とはまた別のカテゴリで、先に挙げた図書館法第十七条に従う必要はありません。そのかわり、運営費は税金ではなく完全に自前になります。なので、私営図書館のほとんどが会費制であったり入館料を徴収したりしています。そうした図書館はあるジャンルやテーマに特化した専門性の高い蔵書であることが多く、これはこれで必要な施設だと思います。

JR石北本線女満別駅舎にある大空町女満別図書館
JR石北本線女満別駅舎にある大空町女満別図書館

でも、みなさんが考える図書館の魅力って、やはり無料で気軽に使えるというものですよね。私が図書館を作るなら、無料であることにこだわりたいです。失業して絶望していた若者が、お金がないので図書館の本でたくさん勉強して、のちに成功者になった的な美談も現実にちらほらあるのですが、それはやはり第十七条の無料原則があるからです。私設なんだけど、でも無料で使える。リアルではそれは矛盾した姿です。しかし並のお金持ちなら無理でも、ビル・ゲイツやジェフ・ベゾスくらいの資産家ならできるのでは?

米沢市立米沢図書館
米沢市立米沢図書館

無料原則の次に私がこだわりたいのは専門性とデザイン、アクセシビリティの3点です。まず最初の専門性ですが、こうしてこちらにコラムを書いているということもあり、夢はどどんと世界最初のリンゴ専門図書館というのはどうでしょう。リンゴに関するありとあらゆる書籍や文献、リンゴについて触れられた音楽の音源や芸術作品など充実した資料の収集。展示室やコンサートホールを設けて、カルチャーイベントもどしどし主催する。春から冬にかけて、実際に畑を訪ねたり農家さんのお仕事を手伝ったりしてリンゴの成育過程を学んでいくロングタームの体験講座とかもいいでしょう。とにかく、リンゴというものから生まれるあらゆる情報と、人をつなげる施設になるのです。

大橋トリオのアルバム『Blue』の9曲目は「りんごの木」

デザインもとても大事です。私は旅に出るとできるだけ旅先の図書館に足を運ぶようにしているのですが、カッコいい建物だったり細部に工夫が凝らされていてとても居心地が良いサードプレイスになっている図書館にたくさん出合いました。『世界の美しい図書館』『死ぬまでに行きたい図書館』という本も出ていますし、私も執筆している『図書館へ行こう!!』というムックにも日本全国の優れた図書館がたくさん載っていますので、ぜひ読んでみてください。やっぱり見た目って大事なんですね。才能ある建築家たちの案をコンペで競わせて、上で挙げたような本に載るくらいデザインがイケてる館にしたいですね。

デンマーク王立図書館の館内。通称「ブラックダイアモンド」
デンマーク王立図書館の館内。通称「ブラックダイアモンド」

では最後のアクセシビリティってなんでしょうか。せっかく豊富で貴重なリンゴの資料を集めても、利用者が気軽に触れられなかったら意味ないんですね。申請書をいくつも書いたり、現物を手に取るまでにすごく時間がかかったりしたら、めんどくさくてそんな館には行かなくなりますよね。誰もがいつでもかんたんに資料に触れられるという状態がアクセシビリティです。ウェブサイトやネットを使ったサービスの充実も大事でしょうね。

そしてもっと大事なのは人材です。かなり突っ込んだ専門的な内容にもきちんとアクセシビリティが確保されるよう、リンゴの専門家や資料に精通した学芸員的図書館員を、ちゃんとした待遇で雇用し、常勤してもらう。広報のプロもきちんと雇って、SNSやメディアなどを通してきちんと館やリンゴについての情報を発信する。リンゴに関するあらゆる情報が、この図書館のサービスで知ることができるんです。アクセシビリティには、公共交通機関との連携も必要です。車を持っている人しか行けない施設にしてはいけません。

富山市立図書館本館。複合施設TOYAMAキラリの中
富山市立図書館本館。複合施設TOYAMAキラリの中

こんな図書館、あったら面白いと思いませんか。リンゴをテーマとした文学賞や、コンテンポラリー・クラシック楽曲の作曲コンペティションとか主催したり。あと、地元のデザイナーを起用してオリジナルグッズを作って販売するとか。ちなみにグッズ開発・販売の試みは現実に日本の公立図書館でもやっているところはあります。販売でお金を得るのは、図書館の利用に対する対価ではないので、お金とっていいんですよ。

ああ、妄想はいくらでもふくらみます。そうだ、できたら館長になりたいなあ!(笑)。もちろんゲイツやベゾスほどのお金持ちになれるはずもありませんが、空想なんだからスケールはいくらデカくたってもいいんですよ。みなさんも理想の図書館、考えてみませんか。

2019/3/7

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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