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音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.38 津軽が生んだ○○

去る4月24日、青森県出身の偉大な芸術家が亡くなりました。

津軽地方にお住まいの読者のみなさんに質問です。津軽が日本全国に誇るモノや人というと、何(誰)が思い浮かびますか。ほとんどの人が「リンゴ・太宰治・棟方志功」の3つを挙げるのではないでしょうか。しかしあえて言おう、一人足りないと。それは弘前市出身の作曲家、菊池俊輔です。津軽の民には「一般常識」「学校で習う歴史」レベルで認識して欲しい。それくらいの偉人、あなたのふるさとの誇りなのですから。

津軽が日本全国に誇るリンゴ

そんな人は知らない、聞いたこともないと仰る方も多いはず。しかし断言する。彼が残した数多くの作品のうちどれかを、あなたは絶対に聴いたことがあります。あと、この連載でも何度か菊池さんの名前をご紹介しています。知らないと言った人は時々しか読んでないな?(笑)

この辺で、デジタルネイティブ世代やすぐにネットで調べる習慣を持っている人はスマホを取り出して「きくち・・・」と検索語句を入力しはじめている頃でしょう。ああ、やめてください。この段階でググられてしまうと、もうこのネタで原稿を書き進められなくなるじゃないですか。ネタ探し大変なんですから、お願いしますよ。調べるのはあとにして、ちょっとだけお付き合いくださいませんか。

さて次の質問です。作曲家と言うとどういう人を思い浮かべますか。多くの人はユーミンや桑田佳祐のようなポップソングメイカーを挙げるでしょう。またはバッハやドビュッシー、ベートーヴェンたちクラシックの大作曲家。同じ「作曲家」として認識されていますが、実はこの両者が実際にやっていることにはだいぶ違いがあります。

クラシックの作曲家は作品の中で鳴っている全ての音を自分で作っています。ずらーっと縦に並んだノートのような五線譜に、いっぱい音譜が書き連ねられている。見たことありますよね。あの楽譜に書かれているすべての音を自分で考えて作っているのがクラシックの作曲家です。

クラシック曲の一例。アルメニア人作曲家ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲。ソリストはソ連の至宝ダヴィト・オイストラフ。オイストラフが作ったカデンツァ以外の全ての音をハチャトゥリアンが楽譜に書いて作っています

ポピュラーミュージックの人はそこまではやってない場合がほとんどです。最悪、メロディーとコード進行くらいしか作っていないこともあります。しかしそれだけではCDに収録されたり有線やラジオにかかる形でみんなの耳に届くような商品にならない。バンドやオーケストラが伴奏するための楽譜が必要です。

それらを編曲という名目で作曲しているのが編曲家です。前回でも天才編曲家の大村雅朗に触れましたが、ポップスでは作曲者の創ったメロディーをもとに、その曲のほぼすべてを音符にして作り出しているのが編曲家です。シンガーソングライターなどほとんどのポップスコンポーザーは、編曲家が仕事をするための「モチーフ」のようなものを提供する係だと言ってもいいかもしれません。

例えるなら、エラリー・クイーンや岡嶋二人みたいな二人一組の推理作家のうち、トリックやストーリーのアイディアを出すのが作曲家で、実際にそれを小説の形にまとめあげるのが編曲家ということになるでしょう。なのでクラシック以外のジャンル(特にポピュラーミュージック)でクラシックの作曲家にあたるような作業をしているのは編曲家なのです。

編曲家はアイドルや歌手の楽曲の仕事だけでなく、バンドにおいても手腕を発揮することもあります。たとえば奥田民生がいたバンド「ユニコーン」は元ジャズピアニストで敏腕プロデューサーの笹路正徳が知恵袋として編曲に参加したことで成功したと言われています。バンドサウンドは、バンドのみんなで編曲してるんじゃないの?と思われがちですが、そういう例もあるんですね。

ユニコーンの3rdアルバム「服部」。ヴォーカルの奥田民生はその後ヒットソングライターとして活躍することに

さて「作曲家」が活躍するジャンルで、ポップスとクラシック以外にもう一つ、日常的に耳にしている音楽があります。それは映画やドラマ、CMやテレビ番組などで使われる音楽です。それぞれ微妙に違うジャンルなのですが、主役として映像があって、そこに添えられる音楽ということでとりあえずここでは「劇伴」というジャンル名でまとめることにします。

さて、長らくお待たせしました。先日亡くなった菊池俊輔はこの「劇伴」の伝説的な作曲家だったのです。劇伴の作曲家はポップスの編曲家やクラシックと同じで、曲で鳴っている音のすべてを楽譜にして作ります。菊池さんが亡くなったというニュースは、ローカル局ではなく全国版のニュースで報道されていました。もちろんローカルでも流されましたが、その時はじめて「ふーん、弘前出身なんだ」と思った津軽人のほうが多かったのではないでしょうか。

では菊池俊輔さんの主な作品を挙げてみましょう。彼はアニメやテレビドラマをメインに活躍した作曲家です。アニメ作品では、「タイガーマスク」「バビル二世」「ゲッターロボ」「ドラえもん」「ドカベン」などなど。テレビドラマは「暴れん坊将軍」「Gメン’75」「キイハンター」「仮面ライダー」「江戸川乱歩シリーズ明智小五郎」「柳生十兵衛」など。ドラえもんやタイガーマスクのよく知られた主題歌ももちろん菊池さん作曲です。音楽的にはド派手でけれん味のあるジャズロック風のスタイルでとにかくカッコいい曲が多いです。

タイガーマスク
本物のプロレスラーまで生んでしまったマンガ「タイガーマスク」。アニメ版のこの有名な音楽も菊池さん作曲なのだ

テレビシリーズを手掛けたアニメ作品は映画でも作曲していることが多く、号泣エンディングで有名なあの傑作映画「ドラえもん のび太の宇宙開拓使」の音楽もエンディング曲も菊池さんのお仕事なんですよおおおお! この映画では子どもの頃の僕も大泣きした記憶があるので、菊池さんの存在と、彼が青森県出身であることを知った時はちょっと感動しましたよ。

僕は青森県のリンゴは世界に誇れる素晴らしい県産品だと本気で思っています。菊池俊輔さんが遺された膨大なお仕事の数々も、同じくらいすごいのです。リンゴが青森の名産であることを知らない青森県民は一人もいませんが、菊池さんもそれくらい知られて欲しい。亡くなったからってわけじゃないですが、弘前市は菊池俊輔記念館を作らなくてはいけません。

いいですか、もう一度。津軽が世界に誇れるのはこの4つ。リンゴ、太宰治、棟方志功、そして菊池俊輔です。体にしみこむまで毎日寝る前に唱えてください。

2021/5/20

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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