音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.7 ご当地風に楽しみましょう

先日仕事で上京した際、JR中央線沿線に宿泊したのでせっかくだからということで、フリーの日に電車を乗り継いで河口湖に足を延ばしてみました。大月駅から目的地の河口湖駅に向かうべく富士急行に乗り換えたら、外国人旅行者がとてもたくさん乗っていて、ふと斜め前の座席を見ると、中南米辺りから来たらしきカップルの男性の方が赤いリンゴを手に持ってガブガブかじって食べていたんですね。外国のドラマなんかでもよく見かける光景なのですが、欧米の人ってまるでスナック菓子みたいな感覚で家でも外でも手でつかんだまま皮ごと食べちゃうんですよ。そう言えば、どこかヨーロッパ辺りの架空の国を舞台にした宮崎駿の傑作アニメ映画『天空の城ラピュタ』でも、洞窟に逃げ込んだ主人公の少年少女ふたりが、カバンからリンゴを取り出して食べるシーンがありました。

紅玉
小ぶりな品種「紅玉」。
すっぽりと手のひらにおさまるサイズ

外国の人が違和感を持つ日本の果物の食べ方の第一位は「皮をむいて食べる」ことなのだそうです。もちろん国によるのですが、外国(特に欧米)ではブドウや桃まで皮ごと食べるらしいので徹底した「皮食い文化」だと言えそうです。日本に近いアジアの国々では、皮をむいて食べる場合も多いとのこと。同じリンゴなのに、不思議ですね。とは言え私がお話をうかがったリンゴのプロフェッショナルの方によると「皮には栄養がたっぷり含まれているので、ぜひ皮ごと召し上がってください」とのこと。ちなみに、違う果物のこと&非常に個人的な話で恐縮ですが、私はイチゴを葉っぱ(上についているヘタ)ごと食べます。実の甘味と、葉のちょっとした苦味のコントラストが美味しいような気がして。こちらは調べてみたら、別に葉に特に栄養があるわけではありませんでした。

このように、同じものでも国によって楽しみ方が違うという例は世の中にたくさんあるのではないかと思います。リンゴのこんな楽しみ方は他には絶対ないだろうといま私が思っているのは、青森や長野などリンゴ生産県にある温泉宿で時々やっている「リンゴ風呂」です。日本のような風呂文化自体がまず世界的に独自ですし、そこにリンゴの実を浮かべて楽しむなんて、外国の人にとっては驚きかもしれません。こういう文化の違いは、例えばポーランドと青森のように、リンゴとカシスの多産地という共通点がある国や都市で比較するとより面白くなると思います。ポーランド人を青森に連れてきてリンゴ風呂に入れると驚く以上にむちゃくちゃ喜ぶのではないでしょうか。ちなみに、ポーランドの街のアイスクリーム屋さんで食べたリンゴのシャーベットは、皮ごとすりつぶしてミントを混ぜていました。

小さなアイスクリーム屋さんにて
ポーランド南西部の大都市ヴロツワフ(今年の「欧州文化首都」に選定)の地元っ子に人気の、小さなアイスクリーム屋さんにて

さて、では音楽はどうでしょうか。同じ音楽でも、接し方がまったく違う文化が存在します。私は高校生の時に民俗音楽にハマっていて、この分野の研究の第一人者、小泉文夫先生の本を読んだり、彼が監修したCDを聴いたりしていました。大学に入学した時、付属図書館に行って真っ先に探したのが、実家周辺の図書館では読むことができなかった小泉先生の著書でした。民俗音楽と言えば、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のひとり細野晴臣が監修した『地球の声』というCDシリーズもすばらしかったですね。それはさておき、民俗音楽の世界ではあっと驚くようなルールの上に成り立っている音楽が多数存在します。

例えば、私が今も強烈に覚えているのがインドの旋法「ラーガ」です。旋法については難しい説明は省きますが、まあとりあえず音階のようなものだと思っていてください。ラーガには「演奏するにふさわしい時間帯が指定されているもの」が多く、「夜のラーガ」とか「日の出前のラーガ」とか、それぞれその時間帯じゃないと弾いてはいけないとかの神聖なルールがあるそうなんです。なんじゃそりゃ???ですよね。また季節が指定されているものもあるそうです。例えば「雨季のラーガ」とか。漢方や鍼などの東洋医学が西洋のそれとまったく違うように、音楽の世界にもヨーロッパとは異なるアングルが存在するんですね。

ビートルズほか世界中に影響を与えたシタール奏者
ラヴィ・シャンカールによる「夕暮れのラーガ」プリヤダナシュリ。
ノラ・ジョーンズは彼の娘さんです

西洋音楽と違うと言えば、欧米で使われているドレミファソラシド+半音の計十二音の「十二音階」を使っていない音楽もたくさんあります。有名なのはタイの一オクターブ七等分音階。現代の西洋音楽だと一オクターブを均等に十二個に割った音を使用していますが、タイではそれが七つに割っているということです。お隣の国ミャンマーだと、また違う方式で設定した七音階を使っているそうです。どんな音なのか想像つかないですよね。イランやイラク、トルコの伝統音楽では西洋音楽の十二音の音と音の間にさらに9つの細かい音の違いがあり、まだ伝統が色濃く残っていた一昔くらい前までなら、一般のタクシー運転手でもその違いが聴き分けられたといいます。

ひとくちに果物だ音楽だと言っても、国や地域によって楽しみ方も意識の持ちようもかなり違います。それは、ある人の「人物像」が、接する人によって全然違ったりするのと似ているかもしれません。だからこそ、世界は複雑で面白いのだと私は思います。蛇足なんですけど、最近はそういう、同じ対象に対して違う見方があるという「多重視点」の楽しさを導入したエンタメ作品も増えてきました。内田けんじ監督の映画『運命じゃない人』や伊坂幸太郎の小説『グラスホッパー』『マリアビートル』などがオススメです。ぜひリンゴを皮ごとかじりながらお楽しみください。

2016/4/7

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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