音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.23 弘前のいのち

私たち青森県民が県外の誰かを訪ねる時。あるいは青森県に観光に来た人が買って帰るお土産に。用途はさまざまでしょうが、人気のものの一つにリンゴのお菓子「いのち」があります。いのちは、リンゴの果肉入りソースがたっぷり入ったクリームが魅力のカスタードケーキ。弘前市に本社を構える「株式会社ラグノオささき」さんが製造販売しているビッグヒットコンテンツです。

いのち
ラグノオささきの銘菓「いのち」

私も仕事で上京する時や帰省の際に何度も持って行ったことがあります。今はリンゴだけではなくて、いろんな種類があります。しかし、なぜ「いのち」という名前なのでしょうか。おいしいはおいしいのだけれど、ちょっとびっくりしてしまうネーミングです。その由来を調べてみました。

先に結論を言いましょう。このお菓子の名前は、1986年放映のNHK大河ドラマ「いのち」からとられています。大河ドラマと言えば今年は宮藤官九郎脚本の「いだてん」ですが、この「いのち」は橋田壽賀子の脚本。そして、舞台は何と弘前市なのです。主役を演じたのは三田佳子で、ヒロインの名前は「高原未希」といいます。ちなみに「いだてん」はこの「いのち」以来の昭和以降をメインの舞台にした作品だそうで、ヒロインの初恋の相手を演じているのは、「いだてん」では重要人物「嘉納治五郎」として登場する、若い頃の役所広司です。

このドラマから生まれたのはお菓子の名前だけでなく、リンゴの新品種名もあります。「未希ライフ/ミキライフ」です。ヒロインの名前=ミキと、「いのち」=ライフからネーミングされました。ミキライフは、リンゴ農家のシーンの撮影で協力した農家の工藤清一さんが新たに開発した品種で「千秋」と「つがる」の交配種です。1991年に品種登録されています。さわやかな風味は、お菓子作りに向いているそうです。個人的には「そろそろ朝の連続テレビ小説(今期は「スカーレット」)も、青森を舞台の作品こんかい!」と思っているのですが、この「いのち」の時は、県内もさぞや盛り上がったのでしょうね。

ドラマから名付けられた品種「未希ライフ」
ドラマから名付けられた品種「未希ライフ」

さて、大河ドラマの音楽制作と言えば実力派作曲家と相場が決まっています。ここ数年の作品を見るだけでも、大友良英(いだてん)、富貴晴美(西郷どん)、菅野よう子(おんな城主 直虎)など天才コンポーザーが目白押しです。菅野さんはNHK東日本大震災プロジェクト「明日へ」のテーマソング「花は咲く」や、先日行われた天皇陛下御即位祝典の奉祝曲の作曲も手がけています。では「いのち」の作曲家は誰でしょうか。坂田晃一さんです。

その名前を聞いてもピンとこない方もいらっしゃるかと思いますが(すみません、僕もそうでした)、生み出した作品名を見れば誰もが知っているというすごい方です。テレビドラマでは「いのち」他、橋田さん脚本のものによく携わっていらっしゃいました。あの国民的大ヒット、連続テレビ小説「おしん」の音楽も坂田さんによるものです。「おしん」の影響力は海外にも及んでいて、私がはじめての外国旅行でイランに行った時、明らかに日本人に見える私を見て現地の人たちが口々に「ウシン」と言うのです。あとで日本語が話せるイラン人の人に訊いたら「おしん」のことだと教えてくれました。もう20年近く前のことですが、当時のイラン人にとって日本と言えば「おしん」だったのです。

しかし坂田さんの特徴は、どちらかと言うとポップ・ミュージックや歌謡曲のほうをメインのフィールドにしている作曲家だったということです。これは、ドラマや映画の音楽を手がけるコンポーザーとしてはとても珍しいんですよね。坂田さんは加藤登紀子、坂本九、チェリッシュ、ダ・カーポ、ビリー・バンバンなど錚々たる歌手たちに作品を提供してきましたが、中でも有名なのは西田敏行が優しい歌声とピアノ弾き語りで歌う「もしもピアノが弾けたなら」です。そう「ええ曲や・・・・って、ピアノ弾いとるやないかい!」と全国民がツッコんだ、あのバラードです。私もあの曲がすごく好きでした。

坂田晃一の名曲の数々を収めたコンピレーションアルバム

ところで、ドラマの作曲家と言えば弘前には出身者でものすごい偉人がいるんですよ。ご存知ですか。それは菊池俊輔さんです。以前もこの連載のどこかでお名前を出したと思います。映画「昭和残侠伝」シリーズ、ドラえもんの映画版の数々、時代劇「暴れん坊将軍」に刑事ドラマの名作「Gメン’75」、特撮ヒーローもの「仮面ライダー」シリーズ、アニメでは「タイガーマスク」「ゲッターロボ」などなど、すさまじい量の名曲群と仕事量を誇った「お茶の間の大作曲家」なのです。個人的にはアニメ「新造人間キャシャーン」の主題歌は超名曲だと思っています。

菊池俊輔作曲「たたかえ!キャシャーン」(新造人間キャシャーン主題歌)

定番銘菓からはじまり、弘前出身の大作曲家へといたる旅。いかがでしたか。今日のおやつはぜひ「いのち」か「ミキライフ」をどうぞ。

2019/11/26

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オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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