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音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.52 おかずになるリンゴ、音楽になるおかず

近年は「図書館ウォーカー」などと名乗って全国各地の公共図書館、またはそれに類する施設を気ままに訪ね歩いているのですが、旅の楽しみは何と言ってもグルメ。旅先の街のおいしい店で食べるのももちろん楽しいのですが、ご当地スーパーにふらっと入って地元ならではの食材を眺めたり、お持ち帰りできる食品を購入するのも好きです。

さて飲食店のほうは、そこに泊まったら必ず食べに行くお店というのがところどころにあって、例を挙げると熊本市のとんかつ屋「勝烈亭」、島根県益田市の台湾料理屋「明珠」、鳥取市のたくみ割烹店などでしょうか。ちなみに僕が今いちばん好きな料理はたぶん「とんかつ」で、勝烈亭は日本一のとんかつだと思っています。みなさんも熊本市に行かれた時はぜひ!

熊本市の勝烈亭のとんかつ。いよっ日本一!

おみやげで最近気に入ったのは、鹿児島県枕崎市のJR枕崎駅前にあるスーパーで買った、すぐ近くの坊津という地域(南さつま市)で採れた塩と乾燥ブルーベリーをミックスした調味料。これを焼いたお肉にパラっと振りかけると、とってもおいしいんです! また、昨年夏に1週間ほど滞在した利尻島で買った顆粒昆布だしは、家に持ち帰ってからもしばらく活躍していました。北海道だと豊富町で購入して送ってもらったフレーバーバターなんかもおいしかったなあ。僕は料理を作るのが好きなので、ご当地グルメ系のおみやげはけっこう調味料が多いかも。

枕崎駅から坊津へ向かうバスから見た海。遠くに硫黄島(三島村)が!

もう一つ、ものすごく気に入ったおみやげがあります。また鳥取市の登場ですが、鳥取駅内のおみやげコーナーで買った「じゃことらっきょうの生ラー油」です。その名の通りじゃことらっきょう(鳥取県福部町産)をラー油に漬けたものなのですが、これをご飯の上にほんの少しのせるだけでお米をかきこむ手が止まらなくなるという困りもの。不思議なことに、商品説明「カレーよりご飯やお酒に合うらっきょう」にあるようにこれはなぜかご飯にしか合いません。うどんや「ばっけ」でも試したのですが、ピンとこない味になりました。

この商品が画期的?だったのは、それまで「箸休め」だと思われていたらっきょうが「おかず」になると教えてくれたことじゃないかと思っています。ご当地食品との出合いは、こういう意外性や驚きを感じさせてくれるものだとより楽しいですね。そもそもラー油もちょっと前まではただの調味料扱いでしたが、今や「食べるラー油」というジャンル?ができていますよね。そこで青森市在住の僕は考えました。「おかずになるリンゴ」って作れないものだろうか?

鳥取砂丘。この砂がらっきょうを育てるのだ

上で挙げた例になぞらえると、リンゴのピクルスのようなものをほたてのひもの燻製と一緒にラー油に漬けるとか、リンゴを乾燥させて細かく砕いたものを塩と混ぜ合わせるとか。まあ食品の商品開発ってものすごく努力されている分野だと思うので、こういうのもきっと試し済みなのでしょうが、いちおう素人考えでイメージしてみました。今のところ、りんごはお菓子やドリンクに使われる印象が強くて、それ自体が「ご飯のおかずになる」というものはまだほとんど出ていないような気がします。

さてさて、音楽の分野でおかずと言えば、ドラムのフィルインです。なぜおかずと言われているのかはよくわかりません。フィルインはなかなか説明が難しいのですが、インストより歌モノのほうがわかりやすいと思います。ドラムというのはリズムキープのために基本パターンを叩くことが多いのですが、曲展開の変わり目やメロディとメロディの間の空白部分などに短く装飾的アプローチを入れることがあります。それがフィルインです。いやいや、全然わかりやすくないって?

ではオノマトペで表してみましょう。基本パターンが「ドンタン、ドドタン」だとしたら、それを何回か繰り返した後に同じテンポでこんなのを入れてみましょう。「タカトコトントン」。このタカトコ~がフィルイン、おかずです。口真似できるフィルインにはいろいろあります。ダチーチーチーとかズバラダッドパッ、バケラッタバケラッタなどなど。だんだんイメージできてきましたか?

というわけで、音楽の世界の名おかずをいくつかご紹介して終わりにしたいと思います。名おかずと言うか、フィルインの説明にかこつけて自分の好きな曲を聴いてもらおうというだけなのですが(笑)。まず1曲目。フィルインはスローな歌モノのほうがわかりやすいです。ブラジルの女性歌手フローラ・プリンの超名盤「エヴリデイ・エヴリナイト」から、天才ベーシスト、ジャコ・パストリアス作曲の「ラス・オラス」。ドラムはハーヴェイ・メイソンです。基本パターンは「カツカツカツカツ」みたいな感じで、おかずは「ツタタタタタタ」などたくさん登場します。

2曲目は私的ドラム神ビリー・コブハムのライヴの名演から。CTIというレーベルで活躍していたスーパープレイヤーたちを一堂に集めて行ったオールスターコンサートから、トランペット奏者フレディ・ハバードの名曲「レッド・クレイ」。これはインストでジャズ・ロック風味のハードボイルドな演奏ですが、ここでのコブハムはトランペット、テナーサックス、ギターのソロの間、基本的にずっと「6小節+2小節おかず」のパターンを繰り返しているのですごくわかりやすいです。70年代ジャズの熱さが詰まった超名演。

3曲目はドラムの演奏がだんだん「オールおかず化」していく叩きまくりの名演をどうぞ。トランペットの兄ランディとサックスの弟マイケルが結成したブレッカー・ブラザーズのフュージョン史を代表するライヴ盤から「スポンジ」。ドラマーはフランク・ザッパのバンドに参加して一躍名をあげた美青年テクニシャン、テリー・ボジオ。テリーちゃん、最初のうちは基本のリズムパターン+おかずという感じなのですがすぐに歯止めが効かなくなり全部おかずのようになっていきます。お腹いっぱい。

今回のテーマについて、弘前の大学生時代の知人(元ドラマー)に「おかずの例」を訊いたら「あれだろ、あれ、マルエススーパーチェーン」と言われました。そうそう、弘前に何店舗もあったスーパー「マルエス」の中でかかっていたテーマソングのイントロ、「たらったったっ、ドドッタカトタカトトン」のカタカナ部分はまさにフィルインでしたなあ。たぶん打ち込みだと思いますが。マルエスは惜しくも閉業してしまったので若い人はご存じないでしょうね。おかずを売っているお店で鳴っていたおかずの話で、今回の締めでございます。おあとがよろしいようで。

2023/4/27

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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