音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.32 女性優位?のリンゴ界

つい先日、ベルリン国際映画祭が「男優/女優」の区分けを廃止する発表を行って話題になりました。ウーマンリブ、フェミニズム、そして#MeTooムーヴメントを経て、現代社会は人類の歴史上もっとも女性が台頭する時代に突入しています。もちろんまだまだ全くもって充分ではありません。一人の人間が当たり前に生きていく権利を、男女もLGBTQも誰もが平等に持つ世界はいったいいつ実現するのでしょうか。

特に日本はジェンダー・ギャップ指数世界121位というとんでもない男女平等後進国です。日本の男女共同参画は、女性に「男性並みの仕事の成果」のチャンスを与えはしたものの、男性に対して「女性並みに家事・育児をできるようになれ」とはなりませんでした。結果、ものすごいクオリティで家庭と仕事を両立できるスーパーウーマンがロールモデルとなり、夫婦共働きする「ふつうの女性」たちの多くがへとへとになってしまったという問題がありました。

※ジェンダー・ギャップ指数とその順位については、内閣府男女共同参画局の下記ページをご参照ください
http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2019/202003/202003_07.html

僕はコロナ禍以前から「家事の大部分担当兼執筆」みたいな生活に移行していまして、そうした日常を送ることでようやくわかったことがあります。一人暮らしならまだしも、人が複数人一緒に暮らすぶんの家事をこなすには、ワンオペでは無理です。「手伝い」程度でなく、その家庭の大人たちががっつり協力し合わないと、家事も子育てもとうていまわらない量だと思います。これからはそういう前提で社会制度が作られて欲しいですし、教育もなされて欲しいです。

特に男子教育はかなりの進歩が必要でしょうね。男として社会に育てられてきた自分のこれまでを振り返ってみても「男の子は家事ができなくてもいい」「ちょっと乱暴なくらいが男らしくていい」みたいに、なんとなく許される機会がとてもとてもたくさんありました。30~40年前の育成環境だからしょうがないのかもと思っていましたが、先に挙げたジェンダーギャップの順位を見る限り、残念ながら今の時代もあまりかわりないのかもしれません。

日本の男女2人組Zabadak(ザバダック)は、男女双方が歌って演奏して曲も作るという、とても珍しい男女平等ユニットでした。曲作りは男性のほうが担っているパターンが多いんですよね。

最近読んだ『2億円と専業主婦』(著:橘玲)という本で、女性が男性に求める結婚してもいい人の条件トップ3を知りました。1位は「性格が合う」ですが、これは相性の問題でもあります。つまり自分だけではどうしようもないもの。しかし2位と3位は「家事をちゃんとする」と「(女性の)仕事への理解がある」でした。つまり、多くの女性が結婚したい男性の特徴は、もう「安定した収入」や「頼りがい」などではないのです。これからあるべき男性像が、うっすらとですが見えてきませんか。

この2つの要素の重要な点は、やろうと思えば誰にでもできるところと、教育でかなり改善できるというところです。でもまだまだ道のりは遠そうですよね。これもそもそもは、政治家に女性が少なく、リアルな女性の声が政策に反映されにくいことが関係してくるのでしょう。

しかしそれでも着実に女性の時代が近づいてきています。特にクリエイター業界は女性の才能が爆発していて、日本でもジェンダーギャップなんのその。いま外国で一番知られている日本のジャズピアニストの一人は上原ひろみですし、本連載でも時々登場するジャズ作曲家の挾間美帆は今年グラミー賞にノミネートされました。

ちょっと前のものですが、海外ジャズフェスでの上原ひろみの演奏を。
女性演奏家にありがちなナイトクラブみたいなドレスとか着ないのも彼女のいいところ

映画監督も河瀨直美、西川美和、荻上直子など海外での受賞を重ねる世界水準の作家が目白押しです。ドラマの脚本家も、近年ヒットしたドラマの脚本家は大半が女性ですよね。小説家も宮部みゆき、辻村深月、湊かなえなど、現代日本カルチャーの代表選手と言えそうな人は数え上げたらきりがありません。もはや女性作家たちは「業界の花」などではなく、シーンを支える大黒柱だと言ってもいいでしょう。

僕は2014年に中欧4ヵ国(ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー)の90年代以降の音楽を紹介する『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』という本を監修したのですが、各国の代表的アーティストを一人ずつ紹介する最初の章で、4人全員を女性にしました。「女性が最先端で活躍する国の文化は最高にカッコいい」というのが僕の最も言いたいことだったのですが、「きれいどころ」を揃えたヴィジュアル戦略だと捉える人が多く、とても残念でした。外国で出版されたとしたらどうだっただろうと考えることもありました。まあある意味、日本の社会が反映された反応だったとも言えそうですが。

監修本でハンガリーの代表的アーティストとして紹介したサローキ・アーギ。インタビューしたことありますが、微妙に天然っぽいキャラでした

それにしても、圧倒的に女性優位という世界はないものでしょうか。もちろん目指すべきは男女「平等」であって、女性が男性にとってかわる世界でないのは言うまでもありません。たとえば、週刊少年ジャンプに連載されていた「めだかボックス」(原作:西尾維新/作画:暁月あきら)というマンガは、ヒロインの黒神めだかが圧倒的強者というとても珍しい作品でした。そういう例を探していたら、ふと気づいたのです。リンゴを含めた果物の品種名って、女性名が多くないですか?

「千雪(ちゆき)」

とりあえずリンゴの女性名品種の主なところを挙げてみましょう。あかね(茜)、あずさ、あきよ(安祈世)、しずか(静香)、ちゆき(千雪)、はるか、ほのか、みき(未希ライフ)、めぐみ(恵)、ゆかり(由香里)・・・。ひめかみ、ピンクレディー、ファーストレディー、アルプス乙女、あいかの香り、めんこい姫なんていうのもあります。

対して男性名と言えそうなのは、かんき、こうき(黄輝)、しゅうよう(秋陽)、やたか、ようこう(陽光)とかでしょうか。男性名はちょっとひねったネーミングが多いような? でも、きたろう、こうたろう、さんたろうという「たろうシリーズ」もあるようです。

リンゴの品種は全部で2千種くらいあるそうですが、男性名品種をどう多く見積もっても9対1くらいで女性名優位になるのではないでしょうか。一方で、せんしゅう(千秋)やなつみどり(夏緑)などは現代社会ならではの名前かも。千秋は「ちあき」とも読め、こちらの読みなら女性名になりますよね。また「なつ」や「みどり」は男性名としてつけられることもあるのでは。実際、清水玲子の「輝夜姫」という傑作SFマンガに碧(みどり)という名前の少年が登場します。完全な男女平等社会になった未来には、ひょっとしたら名前の男女差もなくなっているかもしれません。

果物の実にはオスメスの区別はないので、男性名をつけても全然かまわないのに女性名をつけるのが主流のようです。なぜなんでしょう、面白いですね。女性名のリンゴを食べながら、これからの社会について、ちょっと考えてみませんか?

2020/10/1

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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