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音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.56 リンゴの名がついた温泉をたどって

唐突ですが、僕は子どもの頃、銭湯や温泉などいわゆる「公衆浴場」が嫌いでした。それらの特徴は不特定多数の人たちと一緒にお風呂に入るということですよね。それが嫌だったのかなと思っています。たぶん、家庭環境が少々複雑だったので、独りになれる数少ない場所が家のお風呂だったということが影響しているのではないでしょうか。あ、ちなみに複雑な環境と言っても両親とはとても仲が良かったのでご心配なく。

と、いささか重たい?内容ではじまってしまいましたが、今ではなぜか旅先で良さげな温泉があれば入るようになっています。とは言え、ディープな温泉ファンというわけではないので泉質に特にこだわりがあるとか、成分量をまめにチェックしているとかそういうことはありません。ちなみに好きなタイプは入ると肌がぬるぬるになる温泉ですかね。あとは湯温40度以下のぬる湯にゆっくり入るのが好きです。でも熱めのはそれはそれで好き。

個人的にはぬるぬる系だと、北海道の幕別町忠類にある十勝ナウマン温泉や秋田市内のホテル、ドーミーインの温泉が屈指。ぬる湯なら愛媛県松山市のニューグランドホテルや北海道豊富町の皮膚病に効く豊富温泉の名旅館「川島旅館」のものが気に入ってます。機会があったらぜひ入りに行ってください。

世界的に珍しいオイルバス、豊富温泉郷内の川島旅館

僕は全国の街の図書館を訪ね歩く「図書館ウォーカー」なので、基本的に図書館訪問を目的にその街に行くのですが、今ちょっとこだわっているのは「温泉図書館」です。究極的に面白いのはなぜか温泉と図書館が同じ建物内にあるという、名付けて「温泉図書館リミテッド」というものですが、すぐ隣や最寄りの建物に温泉がある「準・温泉図書館」でも別に構いません。スープの冷めない距離ならぬ、お湯の冷めない距離とでも言いますか。なので、そういう図書館と温泉がある街には積極的に出かけています。

温泉が多い日本の中でも青森県は温泉県の一つと言ってもいいと思います。ただ、僕が知る限り今のところ県内の温泉図書館は2つしかありません。青森市のすぐ北、蓬田村のふるさとセンター図書室(徒歩すぐの最寄りの建物が町営温泉)と、下北半島は横浜町のふれあいセンター内にある町民図書館(隣の老人福祉センター内に温泉あり)です。もし他にもあったら教えてください。

青森県横浜町の図書館は隣接施設に温泉があります

一方で青森県は「リンゴ県」でもあります。ではリンゴの名がついた温泉はあるのでしょうか。ちなみにリンゴの名がついた図書館は現状では見つかっていません。僕が目的地にしている「公共図書館」ではなく「まちライブラリー」とか「私設図書館」にあたる場所だとひょっとしたらあるかもしれませんね。さて、青森県内でリンゴと温泉、と言えば平川市にある「ホテルアップルランド(南田温泉)」ですよね。リンゴをたくさん浮かべた浴槽でも有名です。

ちょっと調べてみると、県内では他に八戸にいくつか支店がある「りんごのゆ」という銭湯チェーンがあるらしい。また「公衆浴場」ではないのでちょっと反則ですが、青森市のホテル「アップルパレス青森」にも宿泊者限定の人工温泉大浴場が。対象を全国に広げてみると、さらにいくつか見つかりました。

まずは収穫量では圧倒的に我が青森県が勝っているものの、知名度の点ではライバルと言わざるを得ない同じくリンゴ県の長野県に1つ。長野市北部、豊野地区の「豊野温泉りんごの湯」です。次にフルーツ王国山形県の、山に囲まれた朝日町の「りんご温泉」。どちらにもアップルランドと同じくりんごの実をお湯に浮かべた浴槽があるようです。後者はお湯が茶色い「モール温泉」なので、入ると肌がぬるぬるすべすべになるはず。

さて、最後に真打ちの登場です。実は今年、2025年は青森県にリンゴが植えられてから150年というアニバーサリー・イヤー。明治8年(1875年)に県庁敷地内に植えられた3本のリンゴの木からはじまり、やがて青森県は全国60%以上のシェアを誇るリンゴ県へと発展を遂げました。

国産リンゴを代表する品種ふじは青森県藤崎町生まれ

しかし青森は「リンゴのはじまりの地」ではありません。日本ではじめてリンゴが栽培されたのは北海道南部の七飯町です。プロシア人のリヒャルト・ガルトネルが広大な開墾用地を榎本武揚らから借り受け、明治2年からリンゴを含めた様々な苗木を育てはじめました。これが日本の西洋リンゴ栽培の発祥と言われています。

この七飯町にも「アップルの湯」という公衆浴場があります。最寄りの鉄道駅はJR函館本線「大中山」駅で、そこから徒歩20分弱の田園地帯に建っています。七飯町は北海道を代表する観光名所「大沼公園」を擁する自治体で、鉄道も走り函館との間を結ぶバス路線もけっこう本数が多く、なかなか暮らしやすそうな街です。残念ながら都合でアップルの湯には行けなかったのですが、一度七飯町を訪ねたことがあるのでちょこっとご紹介します。

函館との間を結ぶバスや列車があると言っても、道外から観光に来る人にとってアクセスしやすいのは新幹線の玄関口「新函館北斗」駅からのバスだと思います。正確に言うと、ここと函館市を結ぶ路線バスが七飯町を経由するのです。新函館北斗駅は七飯町のお隣、北斗市の最北部にあたります。

ここでまず音楽ネタを一つ。北斗市は昭和を代表する大歌手、三橋美智也が生まれた旧・上磯町を含む自治体。三橋にはトリプルミリオンに迫る大ヒット曲「りんご村から」があり、また彼は津軽三味線の名手でもありました。そのため新函館北斗駅の1階には彼に関する展示コーナーがあります。

大歌手、三橋美智也のリサイタル実況録音。りんご村から~りんご花咲く故郷へ、津軽じょんがら節など。司会は玉置宏さん

七飯町はこの駅がある平野部を取り囲む山々の裾野の斜面上に広がっています。なので町内は坂ばかり。タイミングが合うなら、新函館北斗駅から七飯町に向かうバスを途中下車して「道の駅なないろ・ななえ」に立ち寄るのも良いでしょう。

道の駅もピンキリなのが正直なところですが、ここはすごくおしゃれで楽しく過ごせる場所だと思います。リンゴジュースやリンゴソフトクリーム、大沼産の牛肉や名産品の王様しいたけを使用したグルメなども味わえます。個人的には、王様しいたけの切り身?がゴロゴロ入ったコロッケがオススメです。また七飯は「男爵いも」発祥の地でもあることから、道の駅のすぐ隣にレストランやショップ、資料展示室を併設した「THE DANSHAKU LOUNGE」があります。

さて図書館ウォーカーたる僕のいちばんの目的地はやっぱり図書館。七飯町内に図書館的施設は、大沼公園近くの公共施設内やアップルの湯のある大中山地区のものを含め計3つあります。町のいちばんの中心部にある最後の一つは、役場横にある文化センター内。もともとは別の施設にあったのを最近移転したためか、本棚が廊下やロビーにあたる空間に並んでいる「オープンスペース形式」図書室です。

風格ある七飯町役場。カッコいい!

またすぐ横に無料で利用できる歴史館があり、いわゆる「郷土資料」的な本はこちらの学習ルームにありました。たぶん本を置くスペースが足りなかったためでしょうが、資料内容によって隣接施設にまたがって所蔵しているケースはとても珍しい。文化センターや役場は荘厳な西洋スタイルとでも言うべきか、かなりカッコいい建物でこれらを眺めるだけで来た価値があると思いました。

最後にもう一つ音楽ネタを。かつて三橋美智也が歌ったような「誰もが知っている曲」の一つとして、作家をはじめとしたマルチ・クリエイター新井満が作曲した「千の風になって」が挙げられるのではないでしょうか。実は七飯町は新井さんが亡くなるまでの最晩年に暮らした街でした。なんとこの曲を作ったのも大沼湖畔でのことだったそうで、七飯はリンゴのはじまりだけではなく、稀代の有名曲のはじまりの地でもあったのですね。

2025/8/28

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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